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老人ホームに入る手続きに行ったら、そこでまた痴呆スケールをやられたということなどは枚挙にいとまがないほどです。知能や性格など、こと人格に関するテストをするには、どうしてそれが必要かという説明をきちんとして、本人の了解をとるべきです。

逆の例では、ある医師会では卒後研修のためにテレビのモニターで某大学の内科教授の診察を送っていますが、高齢者の患者には必ず、生年月日から、総理大臣の名前から、計算からという一連のテストをやる。ところがある時、痴呆のない男性の診察で、内科診察が終わると型どおり生年月日から聞き始めた。その患者さんは明らかに撫然とした様子で答えていたのですが、「100から7をどんどん引いて下さい」という段になって、「おまえがやってみろ」と言ったというのです。それ以来、その教授はテストをやらなくなったそうです。しかし、そういうように言える人というのは実は非常に少ないのです。非常に屈辱的な思いをしながらも、答えているというのが実態です。立場の弱い患者さんの心理を踏まえて、一つ一つの行為を考えていかなければならないと思います。

 

痴呆の人は自分の行動を検証しない

寄り道をしましたが、痴呆を全体的な障害と要素的な障害の両面からみる話に戻ります。

もう一つ具体的な例を上げますと、痴呆の方が家から出て道に迷って帰れなくなる徘徊といわれる症状があります。これは家族が非常に困る問題でもあるし、施設でもこの対策で右往左往することは珍しくない。しかし、ここではその対策の話ではなく、道に迷うのは、自分の家の近所の地理がわからなくなる(それを地誌的健忘という)だけでは説明できないということをみていきます。物忘れのせいというほど単純ではないのです。

 

 

 

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