POSと効果的な健康教育
さて、これまでは医師のみがプロブレム・リストを作り、それを診療する患者に示して説明することから、診察がスタートするようにもっていくことが理想的だとされてきました。
私が長年指導している88歳の大動脈弁閉鎖不全症の女性は、受診の際、現時点の自分の状態を書いたメモを持って受診します。その方がご自分の知り合いを私に紹介する際には「日野原先生に受診する場合は前もってご自分のプロブレム・リストを書いて持っていくように」と勧め、プロブレム・リストの書き方を指導しています。そのような知的な患者を紹介されて診察することは私にとっては大きな喜びでもあります。患者自身が書いたプロブレム・リストを見せられると、こちらも勉強させられることが少なくないからです。
日本では国民の96.9%は高校を出ているというほど日本人は高学歴なのですから、患者の側が受診の要領を学んで知的な患者になろうと努力すれば、その成果はすぐに上がるはずです。健康教育というと、やたらに病気について教えることのように考えるのは間違いで、たとえばC型肝炎の人は信用のおける医学書を読めば病気の詳しい知識はよくわかります。その病気の知識を得ることよりも、自分や家族が病気になったときに、どのような医師にかかり、どのように症状を言語化するかといったノウハウを学び、いかに正しい問題解決に導くかということのほうが、本当に役に立つ健康教育といえましょう。病歴を提示して、自覚症、すなわち主観的なこと(Subjective)を上手に言語化するように患者や家族を教育することこそが本当の健康教育なのです(表4)。
患者が具体的に病状を説明しないと、医師はそれを正しく把握することができません。