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患者にとってその時間が無駄であれば、それは医師あるいはナースがその人の寿命を短くしているということになります。無駄な時間でその人の命を費やさせ、無駄な手術行為をやるなどということは、いずれもその人の寿命を削っているということになります。その人にとって時というのは寿命でもあるということですから、無駄な空しい時がないようにしなければなりません。それと同時に、1999年度の国民医療費が29兆円にもならんとしているいまの状況を考えれば、当然、無駄な経費と時間を使うことは避けなければなりません。"Explicit"という英語は、池や海に無造作に釣り竿を投げて魚を釣ろうとする行為をいいます。当てずっぽうに竿を出して魚が釣れるのを待つというのは、患者にあれもこれもと検査を無造作にオーダーすることに似ています。患者には健康保険があるのだからどんな検査をオーダーしてもいいだろうという考えは、国民医療費が破綻しかけている今日にあっては許されないことです。そういう意味からも、この病気の進行段階では何のテストが必要なのかをあらかじめ考えて選択するエンドポイントの視点が必要です。

心筋梗塞の例を上げますと、梗塞発作がいつ頃から起こって、心筋がいつ頃壊死状態になり、それでCPKやGOTという心筋内の酵素が細胞外の血中に漏れているかどうかを推測した上で、いちばん適切な酵素反応を選び出すべきだということです。心筋梗塞発作後、かなり時間が経過しているのであれば、そのような反応を調べても役に立ちません。心筋梗塞の場合、いちばん早く現れる反応は白血球増多で、その頃はCPKやGOTはまだ上昇していないからです。また、心筋梗塞ではなく狭心症の場合には、白血球増加も酵素反応も陰性です。このように白血球をみただけでも、心電図の梗塞の像が出る前に、狭心症か心筋梗塞の鑑別がつくのです。これが両者のもっとも簡単な鑑別診断法です。

 

 

 

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