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つまり、GMDSSに規定されているA1区域で90%から95%もの要救助海難が発生していることになる。距岸20km(約11海里)までは携帯電話が利用できる海域もあるので携帯電話も海難防止上に使用されている事実もある。距岸が短いことと周囲の気温との関係は無いが、厳寒の海域を航行することの無い亜熱帯の海域だけを航行する船舶に、世界の同一規格の動作温度範囲を要求することは性能過剰である。

航行区域に対応したSARTの選択にあたって、

1. 予想される最低気温に対応してSARTを選択すること

2. 海難の発生から関知・救助までの時間の長さに対応した適切なSARTを選択すること

ができれば、動作温度範囲と受信待ち時間の異なるSARTを使用することができる。

つまり、小型軽量なSARTを普及させることで海難発生時の捜索活動の機動性を高めることが可能である。

GMDSSでは、航行区域をA1、A2、A3およびA4と定めているが、備え付けるSARTをこの区域に対応させること一つの方策である。

航行区域のA1,A2,A3およびA4とは、

・A1区域:陸上にあるVHF海岸局の通達範囲(距岸20〜30海里)

・A2区域:A1区域を除いた中波海岸局の通達範囲(距岸150海里程度)

・A3区域:A1、A2区域を除いた静止型通信衛星の通達範囲

・A4区域:A1、A2、A3区域以外の通達範囲

と定められている。極圏などの高緯度地域では静止型通信衛星は利用できないので、A4区域は寒冷な海域とみなせる。このような海域を航行する船舶は、動作温度範囲が広くしかも96時間の受信待ち受けが可能なSARTを備えるべきであろう。A3区域を航行する船舶で、冬季の高緯度地域を航海しない船舶には動作温度範囲は限定されても96時間の受信待ち受けが可能なSARTを備えるべきであろう。A2区域やA1区域だけを航行する船舶においても同様である。このように航行区域に対応したSARTを選択できるようにすることでSARTを活用した捜索救助活動が行える。しかし、SARTの種類の細分化は、SARTの積みつけや救助活動に支障をきたす面もあるので、A4やA3区域を航行する船舶には動作温度範囲が広くしかも96時間の受信待ち受けが可能なSARTを義務付けて、A2やA1区域を航行する船舶は備えるべきSARTを各国別に指定する方式が考えられる。

 

 

 

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