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我々はこれらをさらに掘り下げていきたい。イギリスの文献の多くは、相当の割合で英語圏の国々―みずからが実行中の改革について騒ぎ立てている国―に言及している。英語圏の読者は、たとえばフランスやドイツなどの国々については、こうした国が近代行政においてなした輝かしい歴史的貢献にも関わらず、近年起きつつある事象についてはあまり考慮しない傾向がある。

 

本書は、これらをふまえて、以下に掲げた多くの点で、パブリック・マネジメントの改革に関わる調査研究に貢献することを切望している。

 

・比較研究の分野を強化したこと。本書では3ヶ国以上のシステムの比較が何度も行われる。既存の比較は、単一の総合的な述作というより、むしろ編集して集成したものである場合が多い(とはいえ、この集成文献といった‘ジャンル’にもすぐれて計画的で行動に有益な著作もいくつか、あるにはある。とくにFlynn, Strehl, 1996 and Kickert, 1997、Lane, 1997は、そうである)。本書は10ヶ国を比較し、かつ欧州委員会(EU)についても論究することを企図した。本書が取り上げたのは、オーストラリア、カナダ、フィンランド、フランス、ドイツ、オランダ、ニュージーランド、スウェーデン、イギリスおよびアメリカ合衆国である。

 

・英語圏に瀰漫している「新しいパブリック・マネジメント(NPM)」の風潮をそれほど歓迎せず、これにあまり染まってないドイツとフランスなどの国に最大限、注意を払ったこと。

 

・マネジメントの変化についての研究を、政治システムや政治情況の分析と統合したこと。本書は、公的部門におけるマネジメントの変化は、流動的かつ包括的事象の何通りかの組み合わせとして理解することはできないとするPeters(1996a)やその他の人たちの提唱する見解と、見解を同じくしている。そうした見解においては、政治問題のパターンや反応をより大きく変動する要因の一つとして解釈する必要がある。端的に言えばパブリック・マネジメントは常に公的統治というより大きな課題の一部なのである。

 

・マネジメント改革の明示的モデルと分類法を開発すること。さらに、かかる開発による、しばしば非論理的で主として説明にとどまる文献を補強すること(本書の希望するところである)。

 

・各国における改革の‘結果’について利用可能な論拠を評価すること。この20年間に起きた行政にかかわる激甚な変動の結果について、何を知っていると確信できるのだろうか。

 

・マネジメントの改革に対して、妥当に期待されうること―民主的な統治(ガバナンス)の手段としてのマネジメント改革が持つ可能性と、それが本来的に内包している限界―について、より一般的に考察すること。

 

本書は、上述したとおりの抱負について詳細な考察を加えるという方法で構築されている。第1章では、パブリック・マネジメントの改革の性質について、本書の基本的理解を詳述する。この章で考察されるのは、いかなる種類の活動が含まれるか、影響を受けるのはだれか、用いられている主要な概念はどのようなものなのか、およびマネジメントの改革とその他の変化との間のどこに境界線を引くか、といった問題である。本書は、これらの問題について立場を明らかにするうえで、パブリック・マネジメントの範囲と性質について重大な論争が存在することに注目し、かかる主題のより問題の多い側面のいくつかに言及する。

 

 

 

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