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序論

 

本書は、パブリック・マネジメントの改革に関する近年の文献に見出せるいくつかの欠点を矯正することを目的とした野心策である。野心的な点はいくつかあるが、とりわけ、10ヶ国、3大陸にわたる大局的な展望を持つ点、およびフィンランド、フランス、ニュージーランド、アメリカ合衆国といった、多種多様な国家機構の比較を試みた点が上げられる。我々は、比較による大局的な展望をしようとする試みは、本書の主題にきわめてよく適合していると信ずる。1980年以来、パブリック・マネジメントの改革は世界的な流行であり、OECD加盟国の多くで猛威を振るってきた。何百万人の公務員の勤務生活は大きく変わった(そのうえ、早期退職に追い込まれた例は何万件にものぼる)。巨額の公共予算を管理する方法や手段は一新された。「経費節減」や「効率化による利得」が求められた(ここで「」をつけたのは、そうした概念にまやかしがなく、議論の余地もない場合はめったにないからである)。いくつかの国は、以前から国民の名において所有されてきた財産を大量に民間セクターに売却した。公共サービスを提供している多くの官庁によって達成されたか、もしくは達成が望まれた水準は、かつて例を見ないほど念入りな監視下に置かれた。いくつかの国では、何百万人の市民に対して、かかる市民が依拠している日々の公共サービスの向上を約束する「憲章」が与えられた。経済的かつ軍事的にもっとも有力な国家の元首は、「大きな政府の時代は終わった」と宣言した(Clinton, quoted in Gore, 1996 p.1)。

 

こうした重大な変化―そして要求―は、詳細に研究し、じっくり考えるに価する。だから、当然ながら、パブリック・マネジメントについての報告書、そして書籍の刊行ラッシュが起きた。これらの文献は事象を解き明かし、世の人々を啓発教化した。そのうちのいくつかは(本書の引用でも認められるとおり)理論的に独創的であり、方法論的に巧緻である。それでも、さかんに刊行されたマネジメント関連文献の多くはかなり深刻な限界を露呈している。なかには露骨に福音主義的なものもあり、それらは公平な、あるいはバランスのとれた分析を提示しているとは言いがたいものもある。多くは正確で分析も巧みだが、組織や事業部門、国に焦点を当てている。多くの国々を対象に、純粋な比較を行った研究の数は驚くほど少なく、行政とパブリック・マネジメントの比較という分野全体を視野に入れているのは、何人かの無風地帯にいる情報通の評論家らであった。

 

われわれは、行政システムやこれについて必要とされる知識に関連して、基本的な問いをもっとたくさん発する必要がある。こうした問いは、そのうちの多くが互いに関連し合っている…われわれは、行政がそれ以外の政治システムといかに適合しているか、行政が社会システムといかに「インターフェース」しているかについて、もっとよく理解する必要がある(Peters, 1996a, p.20)。

 

行政事務の改革政策の理念や用語は表面的には酷似しているが、実際の政策の中身が厳密に比較されたことはほとんどない(Ingraham, 1996, p.262)。

 

 

 

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