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03 ソニアの子守歌 作品16

Sonya's Lullaby, op.16(1977-78)―for solo piano

1978年の作品。タイトルは、作曲当時、ナッセンの娘ソニアが不眠症にかかっていたことに由来する。

ナッセンがこの作品で探求しているのは、ピアノの最低音から生じる倍音の響き(彼は幼い頃から、スクリャービンやカーター作品における、この種の効果に魅惑されていたという)。減衰してゆく低音の上で、層を成すようにしていくつもの旋律や和声が重ねられていく過程は、まさに夢と現実の境目を思わせる。曲の性格上、演奏の成否はダンパー・ペダルの微妙な操作にかかってこよう。マイケル・フィニシーによって、1979年1月、アムステルダムで初演された。(約6分)

 

04 オフィーリアのダンス 作品13

Ophelia Dances, book1, op.13(1975)―for chamber ensemble of 9 players

1975年の作品。タイトルの「オフィーリア」はもちろん、シェークスピアの「ハムレット」の登場人物。スコア冒頭には、オフィーリアが川で溺死したことを告げる王妃のセリフ(第4幕7場)が引用されている。全体は8分ほどの短さながら、ピアノとチェレスタの掛け合い、どこかぎこちないダンスのリズム、ホルンの絶妙の用法など、聴きどころは多い。

初演は、リチャード・ストルツマン、ワルター・トランプラー、リチャード・グード、マイケル・ティルソン・トーマスなどの豪華メンバーによって、1975年5月9日、ニューヨークで行われた。(約8分)

 

05 エレジアック・アラベスク 作品26a―アンジェイ・パヌフニクの思い出に

Elegiac Arabesque―in memory of Andrzej Panufnik, op.26a(1991)―for cor anglais and clarinet

1991年作曲。同年にこの世を去った「パヌフニクの思い出に」捧げられた、コーラングレとクラリネットの二重奏である。パヌフニクは20世紀ポーランドを代表する作曲家だが、母親はイギリス人であり、本人も後半生はイギリスに帰化しているから、ナッセンにとっては近しい存在だったに違いない。

曲は、息の長い2本の旋律がゆるやかに絡みつくアラベスク。コーラングレのひなびた響きが実に効果的に用いられている。(約4分)

 

06 ホイットマン・セッティング 作品25

Whitman Settings, op.25(1991)―for soprano and piano

1991年作曲。アメリカの詩人W.ホイットマン(1819―92)が1855年に出版した『草の葉』から選んだ4つの詩による、小さな歌曲集であり、ナッセンの代表作の一つとして知られている。翌年にオーケストラ版がつくられていることをみても、作曲者自身、いかにこの曲集を重要視しているかが伺えよう。

自然と永遠を主題にしたテキストが、音楽と触れあって俳句的な風情を醸し出す様子は、いわばナッセン的な「ミニチュアリズム」の白眉といえる。

I「博学な天文学者の講義を聞いた時」:無意味な理屈のくだらなさと、星々の神秘的な輝きの対比。

II「もの静かな辛抱づよいクモ」:次々に糸を繰り出す徒労、そして儚い希望が、どこかためらうような響きで綴られる。

III「鷲のたわむれ」:二羽の鷲の躍動する身体が、瑞々しい音の飛沫によって描かれていく。

 

 

 

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