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IV「雨の音」:永遠に循環する水の風景。しっとりと全曲を包みこむような響きで曲集を閉じる。(約10分)

 

07 祈りの鐘 素描――武満徹の思い出に

Prayer Bell Sketch―in memory of Toru Takemitsu, op.29(1997)―for solo piano

1997年作曲。前年にこの世を去った武満徹に捧げられた小品である。もともとナッセンと武満の音楽にはいくつもの共通点があるが、滑らかな息づかいの和音が続くこの作品などは、まさに武満風といえる雰囲気を持っている。

しかし、逆にいえば、だからこそ二人の違いも際だつわけで、例えば中盤からの拍節的な繰り返し部分や、終盤での鐘の連打を思わせる響きには、ナッセンと武満の本質的な嗜好の差異が現れていよう。

1997年9月22日、東京オペラシティコンサートホールにて、ピーター・ゼルキンによって初演された。(約5分)

 

08 声なき歌 作品26

Songs without voices, op.26(1991-92)―4 pieces for 8 players

1991年から92年にかけて作曲された、8楽器のためのアンサンブル作品。今のところ、ナッセンの室内楽の最高峰といってよいのではないだろうか。彼ならではの鋭敏な耳が産み出す魔術的な響きは、ブーレーズの《ル・マルトー・サン・メートル》にも匹敵する鮮やさを誇っている。

全体は4曲からなるが、この内1〜3曲は、特定の歌詞のシラブルを想定した、まさに「声なき歌」として作曲された。一方、第4曲は、パヌフニクの死に際して作られた《エレジアック・アラベスク》の編曲である。初演は1992年4月26日、ニューヨーク。

I「ファンタスティコ(冬の薄片)」:冒頭のホルンの音型から、楽想が縦横無尽に炸裂してゆく痛快な楽章。

II「マエストーソ(平原の日没)」:緩徐楽章に相当。仄かな対位法を用いて、ゆったりと螺旋を描くように、音楽の密度を高めてゆく。

III「レッジェーロ(最初のタンポポ)」:スケルツォ楽章に相当。微細な動きがきわめて立体的な交錯をみせる。

IV「アダージョ(エレジアック・アラベスク)」:8つの楽器によって、原曲により大きな拡がりが与えられている。(約11分)

 

 

 

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