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02 ナッセン:歌と海の間奏曲 作品20a+ワイルド・ランパス 作品20b

――ファンタジーオペラ『かいじゅうたちのいるところ』より

Knussen : Songs and A Sea Interlude, op.20a and The Wild Rumpus, op 20b

from the fantasy opera "Where the Wild Things Are", op.20(1979-83)

ナッセン自作自演の作品はどちらもモーリス・センダックの絵本を原作とするファンタジーオペラからの抜粋。センダックの原作はこまかく精密に書き込んだ絵と大づかみでユーモラスな絵とが交じり合った幻想的な本だが、オペラの音楽も同じような特徴をもっている。楽器の組み合わせから色彩の変化が生まれ、細部をこまかく重ねていくなかに広く親しまれている他の作曲家の作品の断片を編みこんで、大きな織物を作りあげている。

1979年から翌年にかけて作曲され、のちに改訂を重ねたオペラ《かいじゅうたちのいるところ》は、マックスというやんちゃな男の子が主人公。部屋で暴れてママに怒られ(第2曲「スケルツィーノとハミング・ソング」、第3曲「バタリア」、第4曲「アリエッタ1」)ご飯をおあずけになってしまったマックスがあれこれと空想しているうちに、部屋はみるみる森や海に早変わり(第5曲「変換」)。冒険にでかけると(第6曲「アリエッタ2」、第7曲「海の間奏曲」)、かいじゅうたちと出会い、「王様」としてかしづかれる(《ワイルド・ランパス》)。やりたいほうだい遊んだら、ママが恋しくなる(第8曲「夜の歌」)。森をあとにして舟で家へ逃げ帰ると、ママははらぺこのマックスのために大好きなスープを部屋に運んでくれていた。大人が自分の内にある子ども心をみつめなおす、そんな作品である。

オペラの音楽はお互いに関連づけられた26の小部分がモザイクのように組み合わされているが、ナッセンは81年にそこから8つの部分を抜き出して、コンサート用のソプラノとオーケストラのための《歌と海の間奏曲》を作り、さらに第6シーンから《ワイルド・ランパス》(かいじゅうたちのどんちゃんさわぎ)を演奏会用にまとめ、4小節のコーダを書いた。序奏で印象深く導入される変イ音が全曲をまとめている主要音で、マックスの叫ぶ「アミマミオー」も変イ音へ向う4度和音(変ロ・変ホ・変イ)となっている。ムソルグスキーの《ボリス・ゴドゥノフ》とドビュッシーの《おもちゃ箱》からの影響があるほか、1910年代のロシアやフランス音楽に近い響きなのは、ナッセン自身が幼いころ、すごく野性的で興奮する音楽だと感じていたから。第7曲には《グリーン》のような弦楽器を細分化した響きが聴かれ、《ワイルド・ランパス》では不協和音が豪放に鳴り、音楽の展開するスピードははやい。(合計約22分)

 

03 ナッセン:ヤンダー城への道 作品21a

――ファンタジーオペラ『ヒグレッティ・ピグレッティ・ポップ!』によるオーケストラのためのポプリ

Knussen : The Way to Castle Yonder, op21a(1988-90)

Pot-Pourri for orchestra after the fantasy opera "Higglety Pigglety PoP!", op.21(1984-85/99)

「情熱のすべては食べ物にあった」というセンダックの愛犬の死を悼んで作られた《ヒグレッティ・ピグレッティ・ポップ!》は、犬のジェニーが満ち足りた暮らしを捨て、「もっといいこと」を探す旅にでる物語。「経験」を求めてさまよいながら、「経験」は食べられないと落胆したり、赤ちゃんを助けようと必死になったりと「経験」を積んで、主演女優になる夢をかなえる。「ヤンダー城(=はるかな城)」はセンダックがイメージした動物たちの天国(=あの世)である。

1988年から90年にかけて、オペラから2つの間奏曲を抜粋し、オーケストラだけの短いシーンの音楽を挟んで作られたのが《ヤンダー城への道》で、3曲続けて演奏される。第1曲「大きな白い家への旅」はジェニーが猫の牛乳屋の案内で馬のひくミルク・ワゴンにのって白い家へ向うシーンの音楽。属九の和音で始まり、属和音を特徴とする導入部に続いて、カスタネットとタンブリン、トライアングルが拍を刻みはじめる。冒頭のピアノとチェレスタ、ハープの使い方や和声は武満の音楽と似ている。アダージョの第2曲は「小さな夢の音楽」。ジェニーがライオンの夢をみるシーンで、二つの和音を連結したモチーフをゆったりと反復しながら、弦楽器がメロディを奏でる。第3曲「ヤンダー城への旅」は夢みごこちの幻想的な部分ではじまり、前半は舞曲風の闊達な音楽、後半は8分音符で刻まれていく神秘的な音楽となり、終結部では第2曲の和音モチーフが回想される。(約7分半)

 

 

 

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