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04 ブリテン:4つの海の間奏曲 作品33a+パッサカリア 作品33b

――歌劇『ピーター・グライムズ』より

Britten:4 Sea Interludes, op.33a and Passacaglia, op.33b from the opera "Peter Grimes", op.33(1945)

《ピーター・グライムズ》に登場する子どもは、主人公の漁師ピーターの愛憎の対象となる徒弟の少年たちである。徒弟を乱暴に扱う態度をみて、村人たちは彼を白い眼でながめ、まえの少年の死はきっとピーターのせいだろうという疑いを強める。追い詰められた彼は徒弟とともに崖の上の小屋へのがれるものの、逃げる途中、足をすべらせた少年が転落して死んでしまう。3日後、老船長の忠告にしたがって、彼はひとりで海に漕ぎ出し、みずから舟を沈める。このオペラでは2人の少年は弱い存在、影のような存在でしかない。しかし同時に、そのはかないものの命の重さが、ひいては大人をも死においやることになる。

ブリテンはナッセンが最も尊敬する作曲家のひとりである。とくに《4つの海の間奏曲》と《パッサカリア》のくみあわせは、音による詩を連ねたようなナッセンの好む小品集である。1945年にロンドンで初演されたオペラから、それぞれの幕間におかれた間奏曲4つをまとめたもので、さらに今回は第2幕の第1場と第2場をつなぐ間奏曲の《パッサカリア》をはさんで演奏する。個々の間奏曲はひとつの場面から次の場面へと雰囲気を転換する役割をになっている。

「夜明け」はプロローグと第1幕をつなぐ。泡立つような分散和音をあしらいながら、フルートとヴァイオリンで奏でられる高音域のメロディは、灰色の海にさしこんでくる朝の光だろうか。雄大な相貌を感じさせる低音域の和音によるモチーフと交互に現れ、静かに漁村の1日がはじまる。「日曜日の朝」はホルンの3度の和音にのせて、快活なリズムの楽想が奏でられる、陽の光がきらめき、鐘の音が人々を教会へといざなう。続く「パッサカリア」は5曲中、もっとも長い。パッサカリアの主題動機が低音弦のピッツィカートで示され、39回反復される上で変奏が繰り広げられる。この主題がピーターの内気な性格を象徴し、ヴィオラで優しく歌われるメロディが少年をあらわしている。弦のアンサンブルが中心となっている「月光」は、安らかな眠りについている漁村の風景。月の光に海の波頭がきらりと光る。「嵐」は第1幕の第1場と第2場をつなぐ間奏曲。荒れ狂う嵐の音楽で、ピーターの精神に宿っている暗闇が示される。底知れない絶望感、少年への屈折した思いなど、悲劇をよびよせる要素がここに凝縮されている。(約25分)

 

 

 

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