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ナッセンもセンダックも、自分たちは子供のためだけに書くことはできないと語る創作家であり、二人はこの作品を「ファンタジーオペラ」と呼んでいる。ナッセン自身「子供向けに妥協しないで書いたからこそ、子供にも受け入れられるのだと思う」と語っているが、それは子供も含めたすべての人に向けた作品であるという意味であろう。ビデオを観れば、確かに幻想的で愉快な舞台が展開されている。だが、物語自体が子供の心の複雑な深層を垣間見させるものであり、音楽もきわめて密度が高く洗練されたものであることに気付けば、この作品が一般に「子供向け」と言われているどのオペラとも違う、それどころかどのオペラのタイプにも属さないユニークな存在であることがおわかりいただけると思う。

ところで、ブリュッセルの委嘱はユネスコの「子供の年」を記念するものだったせいか、ナッセンによれば、多くの音楽の先生たち――つまり大人たち――は、音楽の「難解さ」に頭を痛めていたという。さらにその初演を観たBBC関係者も、「これは子供向けの音楽ではない」として、イギリスでの公演をキャンセルすると言い出し、それがナッセンに演奏会形式による上演のために手を入れさせるきっかけとなったそうである。芸術作品に対して、子供向けかどうかなどということを大人が勝手に決めつけようとするのは、いずこも同じのようである。

 

あらすじと音楽

 

序曲

第1場 マックス

小さな男の子マックスが、白い狼の衣装を着て、部屋の外の廊下で遊んでいる。「ジャングルのテント」に隠れ、おもちゃの兵隊をやっつけたり、テディ・ベアを待ち伏せしたり、たいへんなわんぱくぶりだ。

[スケルツィーノ――パントマイム――レチタティーヴォとハミング・ソング――コーダ・レプリーズ]

 

第2場 ママ

死んだふりをして床に転がっていると、変な音を立てるものが近づいてきてびっくりする。ママが古い掃除機をかけながらやって来たのだ。ママはマックスを叱るが、マックスは言うことを聞かないでいたずらを続けたので、夕食抜きで寝かされてしまう。

[スケルツォA・B――トリオ――スケルツォ・レプリーズ]

 

第3場 マックスの部屋

むくれたマックスは、野生の森を空想し、両腕を挙げまわりのものに魔法をかける真似をすると、部屋は本当に森に変わってしまう。やがて海とともに小さな帆かけ舟が現れ、マックスはそれに乗り込む。

[パントマイムとアリエッタ1――変換の音楽――アリエッタ2(ラグ)――コーダ]

 

 

 

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