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そして、このような説明に加えて、国際関係において、実力行使のリーディングケースは、アイムアローン号事件と、レッドクルセイダー号事件であり、この事例をしっかりと研究し、そこからの教訓を正しく守るようにするべきだとしてる。

 

6. 小括

 

国連海洋法条約では、その第105条では海賊船の拿捕、海賊の逮捕、押収等ができるとし、第109条では、いわゆる海賊放送を行う船舶を拿捕し、放送機器を押収することができるとし、第110条では、ある前提要件の下、軍艦による臨検の権利を認め、第111条では追跡権について規定している。また第25条では、「沿岸国は、無害でない通航を防止するために、自国の領海内において必要な措置をとることができる。」としているものの、実力行使の態様、方法、程度等について、具体的に規定した条文は存在しないように思われる。国際慣行や各国の法律の解釈論により、実力行使の必要性が否定されていない以上、そこには、実力行使のための一定の基準が存在するという理解が前提となっているはずである。そして、現実に生起した実力行使の各事例の集積から、一定の国際慣行が形成されてきたものと理解してもよいように思われる。さきに述べたように、コロンボス等の各所説、合衆国沿岸警備隊士官学校のテキストに示された理解、戦前の我が国の海戦法規を準用する旨の軍艦外務令の存在などからして、国際慣習として、一定の条件(制限)の下に射撃が許されるということが認められるといってもよいように思われる。具体的な事例としての、レッドクルセーダー事件については、警告なしで実弾射撃を行い、明確な必要性なしに、船内の人命に危険を生ぜしめたことにより、正当な実力行使を越えていたこと。派遣士官等を漁船内に拘束して逃走し、停船を拒否したことは、その暴力的な行為を正当化し得るものではないとされた。アイムアローン号の撃沈は、目的のため必要且つ合理的な実力の行使の結果として偶然に生じたのであれば、追跡船は、全く非難を受けることはないが、容疑船舶を、明らかに意図的に撃沈することは、この場合正当化されることはないと判断されたのであった。

 

 

 

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