日本財団 図書館


レ号が容認し、従っていた命令に著しく違反して逃走したこと、ニールスエベセンの士官と兵がトロール漁船内で隔離されたこと、及びウッド船長が停船を拒否したことは、ニールスエベセン艦長をいくらかは憤慨させることになったかも知れない。しかし、これらの事由は、その暴力的な行為を正当化しうるものではない。委員会は、他の手段が試みられるべきであり、それが正当に続けられたならば、最後はウッド船長を停船に応じさせ、彼自身が先に応じていた通常の手続きに復帰させたであろう(19)。」

このように国際審査委員会の結論は、本件射撃が事前の警告なしの実弾射撃であったこと、そして船体に向けた実弾射撃に明確な必要性がなく、レ号内の人命に危険を生ぜしめたこと、の二点を指摘して、射撃全体が正当な実力行使(武器の使用)の限界を越えるものであったとしたのである。この点に関して、村上教授は、「国際法上の基準として、この判断に立つ限り、漁業法令の執行において、被追跡船舶に向けて射撃を加えることは、それが自船の自衛上必要とされるものでない限り、ほとんど認められないことになる。正当な武器の使用に関し、この報告書の判断は、厳格に過ぎるとの意見もある。また、審査委員会の報告は、『他の手段が試みられるべきであり、それが正当に続けられたならば、最後はウッド船長を停船に応じさせ、彼自身が先に応じていた通常の手続きに復帰させたであろう』と述べている。この『他の手段』としては、おそらく逃走船の航行を追跡船の船体その他の方法で妨害、阻止などの手段を想定しているものと考えられるが、そうだとすると、今度は船舶同士の衝突その他の事故が発生する可能性を生じることになる。そして、停船、乗船を拒否して逃走を図る外国船舶を拿捕するために、武器使用ができるとしても、限定的かつ最終的な手段である。それゆえ、取締りを行う国は、漁業取締りの指針として、武器使用に至るステップを定めておかなければならないことになろう。武器使用に至るまでに、少なくとも、国際的に認められた視覚信号又は音響信号を含む適切な警告と命令を発しなければならない。これが明らかに効果がない場合に、射撃を行うことができるが、それは空砲又は船首を越える射撃でなければならない。これらも効果がない場合に、船体に対する射撃を行うことができるが、その場合でも最小の効果をもつ小口径の固形弾を用いるべきであり、相手の武器による抵抗を受けない限りは炸裂弾を使用すべきではない。」と述べている(20)

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION