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その結果、国内法上どういう立て方をするかは、国連海洋法条約を受けて国内法制を整備するにあたっての各国の立法政策の問題という側面を持つことになる(17)。他方、沿岸国が、「外国船舶に対し無害通航権を否定し又は害する実際上の効果を有する要件を課すること」(第24条1項(a))とならない限りで、その主権に基づき領海使用の条件を定め、船舶の通航を規制する権能をもつことはいうまでもない(18)。こうした沿岸国の無害通航に係る法令制定権は国連海洋法条約で明示に承認されている(第21条)。

ところで、無害性の認定基準と沿岸国の国内法令の違反の有無との関係については、国際法上、両者を結びつけるいわゆる「接合説」と両者を無関係なものとするいわゆる「分離説」の対立が存在する(19)。すなわち、領海を通航中の外国船舶が沿岸国の国内法令に違反する行為を行った場合にのみ、その通航を「沿岸国の平和、秩序又は安全」に対して無害でない通航とみる立場(接合説)と、逆に、国内法令の違反にかかわりなく、沿岸国の重要利益を害すれば無害でない通航とみる立場(分離説)の対立である(20)。後者の立場に立てば、国内法令の違反がただちに通航の無害性の否定に結びつくわけではなく、沿岸国の重要利益を害しない限り、無害通航権は否定されず、単に法令違反の責任を問われるのみである。逆に、前者の立場に立てば、国内法令違反が無害性の認定と結びつくことになるので、沿岸国の立場からすれば、自らの法益を保護するためには、国内法上あらかじめ無害通航にあたらない場合をすべて規定しておく必要がある(21)。こうした対立が続く背景には、「沿岸国が領海内で維持しようとする保護法益の性質をめぐって、すべての法律によりその要件が詳細かつ厳密に確定されるべき事項(法律事項)なのかどうかが、争われるからである(22)」とされる。例えば、本稿で取り上げている「不審船」を念頭に置いた場合、接合説の立場からは、徘徊のような不審な行動をとる船舶や「不可抗力若しくは遭難により必要とされる場合又は危険若しくは遭難に陥った人、船舶若しくは航空機に援助を与えるために必要とされる場合」(第18条2項)を除く、航行に付随しない停泊や投錨を行う船舶を処罰するためには、どのような法益が侵害されるのかをあらかじめ明らかにして、国内法化しておく必要が生ずる。多くの論者の指摘にあるように、不審であるというだけでは処罰の根拠とすることはできないからである(23)。しかし、それにはかなりの困難が伴う。

 

 

 

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