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そして、本事件で注目された不審船への武器の使用については、「警察機関としての活動であることを考慮すれば、警察官職務執行法の準用による武器の使用が基本」であることを確認した。ただし、「不審船を停船させ、立入検査を行うという目的を十分達成するとの観点から、対応能力の整備や運用要領の充実に加え、危害射撃のあり方を中心に法的な整理を含め検討」する必要が了承された(12)。本稿は、こうした基本対処方針を踏まえて、国際法の観点から無害でない通航に対する沿岸国の対応、さらにはその国内法の受け皿としての海上保安庁法が本主題に対してどのような対応を予定しているかを検討するとともに、とりわけ関心を集めた不審船への武器の使用のあり方を検討し、領海警備における法整備又は運用の課題を探ることを目的とするものである。なお、本稿の検討にあたっては、「不審船」という用語を、「沿岸国に対する情報・工作活動など、その航行目的や活動実態が沿岸国にとって許容できない活動を行っている外国船舶を指すもの」として用いることとしたい(13)

 

2 無害でない通航と沿岸国法令の関係

 

国連海洋法条約は、船舶の通航に関して、通航の要件(第18条)と通航の無害性の要件(第19条)を分けて規定している。その点で、通航の要件と無害性の要件が無害通航権に関する同一の条文で規定されていた領海条約と比べ大きく異なっている(第14条2項・4項)(14)。その結果、条約の構造上は、無害でない通航の類型としては、第一に、第18条でいう通航にあたらない場合と、第二に、第19条でいう「沿岸国の平和、秩序又は安全を害しない限り、無害とされる」(1項)という要件を満たさない通航の場合(その具体例は2項に規定されている)が、それにあたると考えられる。もっとも、第18条が、「通航は、継続的かつ迅速に行わなければならない」(2項)と規定している関係で、山本教授が指摘するように、「領海内での徘徊(hovering)、巡航(cruising)、停船、投錨その他の不審な行為は、そもそも通航に該当しない」という解釈も可能な一方で、「これらの行為は『通航に直接の関係を有しないその他の活動(15)』(第19条2項(1)号)に該当し、これに従事する外国船舶の通航は有害とみなされ(16)」るという解釈も成り立ちうるわけで、どちらを根拠としても、沿岸国の保護権を規定した第25条1項に結び付けられる条約体制になっている。

 

 

 

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