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「公海海上警察権」の行使については、その法概念上当然に国連海洋法条約を始めとする国際法上の根拠に基づくことが要請されるのであり、「公海海上警察権」を巡る問題は第一義的に国際法の解釈に従うことになる(10)。加えて、わが国の国家機関が公海海上警察権を行使するためには、国内法令上の根拠規範が必要になる。この点、組織法的には海上保安庁法に基づいて海上保安官が権限行使を行うものと考えれば良いが、海上保安官による取締り等の執行作用は「海上における犯罪」に対する刑事司法権の行使という枠組みによるのが通常であるため、個々の海上犯罪の取締りに係る根拠法令が整備されていることが権限行使の前提となる(11)

国内法上の海上警察作用は、右の「公海海上警察」と区別される形で、想定されることになる。例えば、安富潔教授は、「領海内での海上警察」を、「国家領域内での海上犯罪に対する取締まりのための法執行」作用と定義づけている(12)。これは、上述の「公海海上警察権」にほぼ対応する国内法上の概念と位置づけられるという意味で、海洋法の体系に整合したものと言えるであろうが、右の「領海内での海上警察」の概念は、あくまでも刑事訴訟法に規律された司法警察に係るものとして構成されており、行政法学上の警察作用とは一致しない。

そもそも、わが国において、警察の法概念は、それ自体議論のあるところである(13)。行政法学の通説的立場によれば、警察作用は「社会公共の安全と秩序を維持するために、一般統治権に基づき、国民に命令、強制する作用」と定義され(14)、警察概念の基本的メルクマールは、1]消極目的であること、2]権力的手段を用いることの二つということになる(15)。この点について、現在のわが国の海上における法執行活動から、行政法理論上の警察作用に相当する部分を抽出して分析を行うことに、具体的な解釈論上大きな実益があるとは考えられない。なぜならば、個々の海上警察作用について、警察法の一般理論から導かれる通則を適用して解釈論的操作を行うことが要請されているわけではなく、当面の課題となるのは海上警察となるべき法執行活動について、そのあるべき姿を改めて構想しそのために必要な法的仕組みを整備することにあるからである。そこで、海上警察の行政法理論上の定義の問題に拘泥することなく、まずは現在の実定法の状況について参照するべきであろう。

 

 

 

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