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これらの化学物質汚染については、使用に対する規制制度の確立により、一部では改善もみられてきている。例えば、有機スズ化合物を含む防汚塗料は、漁網への使用禁止、漁船の船底塗料としては、1年未満でドッグ入りする漁船には使用禁止という水産庁からの通達が1990年度になってから出されている。しかしながら、原油の流出については防止することが困難であり、流出後の措置について対策を検討を行うことが重要な課題となっている。

世界各地で頻繁に起こっている原油の流出事故に対して、これまで主としてオイルフェンスを張ることにより、それ以上の原油の拡散を防ぐ方法が採られてきた。また、乳化剤により原油を分散させたり、吸着剤により処理するといった方法も用いられてきた。しかしながら、これらの方法では完全には原油を処理することができない。従来のオイルフェンスを用いた方法では、平均的には流出した原油の3分の1は回収されるが、残りの3分の1は揮発し、さらに最後の3分の1は漂着物となって海洋汚染の元凶となる。これに対して、最近では、微生物の力を借りて環境を浄化するバイオレメディエーションの適用が進められている。

 

(2) 技術の現状

 

1] バイオレメデイエーション

a. 石油分解微生物

これまでに、原油中の種々の成分に対して、それらを分解する石油分解微生物の探索がなされ、その分解経路が研究されている。また、石油分解微生物に栄養分を与えて、原油分解菌を増殖させる試験も行われている。このような研究結果に基づいて、実際の原油流出事故に対して、一部では石油分解微生物が適用されている。

1989年6月に米国テキサス州ガルベストンで起きた原油流出事故において、石油分解微生物が初めて使用された。ここでは、石油分解微生物とその成長を助ける栄養塩が汚染海域に散布された。一方、アラスカで起きた原油流出事故に対しては栄養塩が投下され、天然に生息する石油分解微生物の増殖の促進が図られた。この際用いられた栄養塩は通常の窒素やリンが改良されたものであり、低コストで人手もかからず、早期分解に大きな効果が発揮された。

我が国では、京都大学の今中らにより、HD-1という菌が石油を食べるのみならず、石油がないと他の食物から逆に石油を生成することが発見されている。石油を生成する光合成微生物に関しては、1989年米国のアーサー・ノノムラらのグループにより、ボツリオコッカスという微細藻類のショウワ株という非常に効率よく石油を蓄積する株が発見されている。また、出光興産と地球環境産業技術研究機構により、日本中の湖、海岸、河川などの探索が行われ、ショウワ株より生育がよく、大量の石油を蓄積する新しいボツリオコッカスが発見されている。

 

 

 

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