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NSRの氷況の特徴として、東NSRで氷況が厳しい場合、西NSRでは氷況が穏やかな、またはこの逆になるような場合もある(3.3.3節参照)。モンテカルロ法により、このような現象を表現することは、容易ではない。また、船型開発には氷海水槽試験を用い、試験結果から船型と馬力の関係を求め、曖昧な仮定を極力排除し、精度向上に努めた。本シミュレーションは、現在までに行われた最も精緻なシミュレーションであると言える。シミュレーションにはロシア、フィンランド、日本の研究機関が参加した。ロシアが航路、過去の歴史的な氷況分布などを提供し、フィンランドが船の試設計、船速予測理論を担当し、日本側が各国から提供された研究を統合し、コストシミュレーションプログラムを作成し最終的なコストを積算した。また本シミュレーションにはJANSROPで開発した50,000重量トン型の砕氷バルクキャリアーも対象とした。

 

航路の選定

4.1節で紹介したように、4つの航路を選定した(表4.4-3、図4.2-8)。横浜〜ハンブルク間を直接結ぶトランジソト航路として比較的、水深の深い北航路と水深の浅い沿岸部の南航路の2航路を選定した。沿岸部とヨーロッパ/横浜を結ぶ地域航路として、西側のDiksonとハンブルクを結ぶ西地域航路、Tiksiと横浜を結ぶ東地域航路の2航路を選定した。北航路は喫水12.5m、南、東、西航路は喫水9mの船が航行できるように選定した。実際の航路は厳しい氷況をさけるように選定され、4.3節で解説したように航路管制所の指示した航路を走ることになるが、シミュレーションではこの決められた航路を走るものと仮定している。20海里ごとにポイントを決め、ロシア政府発行の海図上で水深、近傍の障害物などチェックした。西、東地域航路は各々ディクソン、チクシを出ると直ぐに南航路に出会い同じ航路を走ることになる。

 

表4.4-3 シミュレーションに用いた4航路

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船の選定

4.2節でNSRの商船について解説したように、現在運航されている最も近代的な砕氷商船はSA-15クラスであるが、その積載量は約15,000重量トンに過ぎない。運賃を下げるには可能な限り大型の船型を投入した方が、採算が向上する。従って、本シミュレーションでは、各9m、12.5mの喫水に対して試設計を行い、新しい船型を提案した(表4.4-4、図4.4-2)。これらの船は、氷況が厳しくなると砕氷船の後を走り、所謂、エスコートを受けることになる。エスコートされる船の幅が砕氷船より大きくなると、砕氷船が啓開した開水路を後続する船が進むことは困難になる。現在、NSRで最大の砕氷船はArktikaクラスで、その幅は28mである。砕氷船が造る開水路は周辺の氷も割れるので、船幅より若干広くなる。従って、後続の船の幅は30m以内とすることにした。喫水と幅が制限された上で排水量を確保しようとすると、長さ/幅の比が大きな船となる特徴がある。シミュレーションに用いた3船型の特徴を簡単に述べる。詳細は資料5-2を参照されたい。

 

 

 

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