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氷の種類によっては対応する後方散乱強度の幅が広く、また、同一の後方散乱強度に対して幾種類かの氷況が対応する場合もある。従って、衛星画像からの氷況マップの作成は、気温・風速等の補助データを参照するとともに、作業者の経験と熟練にまだ負うところが大きい。

 

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図4.2-12 ERS-1搭載のSARの後方散乱係数と氷況との関係(WP-38)

 

●データの取得・処理・伝達

氷象は風・潮流により常に変化する。従って、リモートセンシングによる氷況データを航路決定に利用するためには、データの即時性、すなわち、画像撮影から利用者の手元に送られるまでの時間が重要である。NSRにおいて行われた実船試験においても、この観点から衛星情報の有用性の検討が行われている。近年カラ海で行われた実験航海においては、ERS-2及びRADARSATからの画像データをトロムセの地上局において受信し、処理をした後にINMARSAT経由でエスコート役の砕氷船へと送信された。画像撮影から砕氷船上においてデータが受信されるまでに要した時間は3から4時間程度である(Pettersson,1999)。リモートセンシングデータによる航路決定の実用化のためには、この時間は3から5時間以内であるべき(Smirnov,1999)という指摘に対しては、この結果はこれをほぼ満足するものと言えよう。しかしながらこれはあくまでも実験ベースの結果である。衛星画像の取得には、一般に画像撮影の指定を数日前から行う必要がある。このような手続きは、実験の場合には問題とならなくとも、実航海への適用にあたってはデータ取得の時間的任意性を下げる要因となる。また、この実験航海はカラ海において行われたものであり、衛星画像ファイルはINMARSATを介して問題無く砕氷船へ送信された。しかしながら、前述のようにNSR上のラプテフ海を中心とする海域にはINMARSATによる通信が困難な海域がある。今後この手法の利用が本格化される場合にはこの通信の問題が解決されなければならない。

このように、マイクロ波を用いたリモートセンシングについては、氷況把握技術としてのさらなる高度化に向けての課題があるが、大きな可能性を持った技術であることは明らかである。今後、SAR等のマイクロ波センサーを搭載した極軌道衛星の増加を含め、これらの課題の解決が望まれる。

 

 

 

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