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ただしこの場合、SAR画像については、ファクシミリではなく画像ファイルがモデムを介して船上へのコンピューターへ送られた(Yamaguchi,1995)。また、最近行われた冬期カラ海におけるタンカーの実験航海においても、ERS-2、RADARSAT、OKEAN、METEOR等の衛星からの画像が航路決定に用いられた(Pettersson,1999,Smirnov,1999)。これらのプロジェクトは、マイクロ波による衛星画像の氷況把握ツールとしての有効性を示すものであったが、同時に将来の本格的利用に向けての課題を示すものでもあった。

 

●撮影領域と分解能

SARによる画像は、空間分解能が約100mと高く、氷況の詳細についての情報を得ることができる。しかしながら、この一方、撮影領域の幅(swath width)が約100kmと狭い。従って、もし画像軸と直角方向に5ノット程度で航行したとすれば、半日足らずで画像の領域を越えてしまう。また、この狭い撮影領域のため、任意の地点に対する撮影の確率が低い。衛星による撮影領域は、地球の自転により周回毎に位置が変わり、ある一定周期で同じ位置に戻るが、例えばERS衛星の通常のオペレーションでは、この周期は3日である。また、撮影領域の中心間隔は、例えば北緯70度では300kmであり、従って、NSR上では約1/3の海域のみが3日に一度撮影可能となるだけである。このようにSARによる画像は、一般に、撮影領域に対する任意性が低い。この点、受動型センサーであるSSM/Iの撮影領域は広く、NSR上のそれぞれの海域を一画像でカバーすることが可能である。このようなSAR画像とSSM/I画像のカバー領域の違いはKandalaksha号による実験航海時に取得した氷況画像にも見る事ができる(図5.8及び図5.9参照)。しかしながら、SSM/Iの画像の空間分解能は約20kmと低く、大まかな氷縁・氷密接度等が判るが、リードの存在、氷の種類の違い等は特定できない。一方、OKEAN搭載のサイドルッキングレーダーによる画像は、この両者の中間的な撮影領域、空間分解能を持つ。このセンサーの画像幅は460kmであり、11回の連続した軌道からの撮影によりNSRのほぼ全域がカバーされる。また、画像の空間分解能は2km程度であるが、冬期、多年氷内の500m幅のリードあるいは250m程度の大きさの多年氷盤の検出が可能であるとされる(Bushuev,1998)。また、RADARSATでは、最大500kmのswath widthを実現できることから、これまでのSAR画像よりも遥かに広い領域の撮影ができる衛星として期待されている。

 

●後方散乱強度と氷況の関係

能動型センサー、特にSARは、画像の空間分解能が高いことに加え、一年氷・多年氷等、氷の種類を特定できる可能性があることが期待されている。能動型センサーにより得られる画像は、衛星から発したマイクロ波の地球表面からの後方散乱の強度を輝度差として表したものである。後方散乱の強度は、氷の表面の粗度、氷上の積雪、氷の塩分濃度、あるいは海面であっても波浪の状態により異なる。従って、衛星画像から海氷と海面の区別、さらには海氷の種類の特定を行うためには、氷況と後方散乱の強度との関係が予め判っていなければならない。このため、衛星画像と現地観測結果との比較研究が行われ、図4.2-12に示すような結果が一例として得られている(WP-38)。図の縦軸は後方散乱の強度である。しかしながら、この図から判るように、後方散乱強度と氷の種類との間に一対一の対応が得られている訳ではない。

 

 

 

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