日本財団 図書館


各海域ごとに海氷状況を概観すると、次のようになる。

カラ海では、9月頃、北部から凍り始め、10月には南部に達する。10月から5月にかけてほぼ全域が種々の発達段階の海氷で覆われる。沿岸域には不均一な定着氷が存在し、座礁氷の沖には開水面や薄氷が見られるフローポリニヤ(定着氷と流氷との間にできる海水面)が存在する。カラ海南部のフローポリニヤは、アムデルマポリニヤ、オビ・エニセイポリニヤなどと呼ばれている。6月から9月にかけては、カラ海の海氷は少ないが、西部では厚い流氷が散在することがある。カラ海東部では、厚い一年氷が大半で密接度の高いセベルナヤゼムリヤ大氷域が航路に立ちはだかる。セベルナヤゼムリヤとタイミル半島の間のビルキツキー海峡は、氷の動きも激しく、NSRの最大の難関に位置づけられる。9月中旬に海氷がもっとも減少し、北緯75゜以南のカラ海には氷がない。特に暖かい夏には、カラ海は北緯80゜まで氷がなくなる。

ラプテフ海は、1月から6月にかけて、定着氷が最も沖へ張り出している海域である。真冬の平均気温が-30℃まで下がるので、定着氷の厚さは2mに達し、厳しい冬には2.5mになる。夏にはラプテフ海西部で海氷が南下し、セベルナヤゼムリヤとタイミル半島の沿岸に海氷が集積する。北極海航路にとっては、ビルキツキー海峡からタイミル半島沿岸の海氷集積域を通過する海域が、一年中挑戦を強いられる海域となる。

東シベリア海は、最も浅い大陸棚が広がる海域である。浅い大陸棚は定着氷を安定させ、厚さ170〜200cmの定着氷が500km沖合にまで広がっている。冬には南からの卓越風が流氷を沖に運び、定着氷縁に沿って航行可能な薄氷域、フローポリニヤを作っている。東シベリア海は多年氷を最も多く含んでいる。アイオン大氷域では多年氷が60%を占め、冬の平均氷厚は2.5mに達する。夏には北よりの風に変わり、北から氷が供給されてアイオン大氷域が維持される。9月に北から結氷が始まり、10月中旬には全域が凍結する。

チュクチ海は、12月初旬から5月中旬の期間、ほぼ全域が海氷に覆われる。氷状の変化が激しく、冬の氷の約80%が夏には消える。氷状変化を激しくしているのは、気温、風、海流と、ウランゲル島および海底地形である。北から運ばれる多年氷が、ウランゲル島とシベリアとの間のロング海峡にも現れて、航路の選択に影響を与えることが多い。

 

042-1.jpg

北極海アイスマッシフの景観(写真:小野延雄)

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION