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3.1.6 北極層雲とアークティックヘイズ

 

北極海は低い雲に覆われることが多く、北極層雲と呼ばれている。時には地表面に達して霧となっていることも多い。北極海の各海域の月平均低層雲出現頻度を調べると、11〜4月の冬の期間は20〜40%程度であるが、6〜9月の夏の期間は70〜80%と頻繁に発生していることがわかる。最も顕著な北極海中央部では、6〜8月の月平均雲量は80〜90%に達し、そのうち低層雲雲量は70%を占める。目視飛行の時代の北極海中央部への飛行不適日数は、6月が18日、7月が23日、8月と9月が22日と、約3分の2を占めていた。冬の期間の飛行不適日数は約3分の1に減少する。

北極の春には、しばしば、アークティックヘイズ(北極の霞、北極煙霧)と呼ばれるスモッグが出現する。晴れていれば200km先まで見通せる北極海氷域の水平線が、アークティックヘイズが発生すると、視程が3〜8kmにまで落ちてしまう。アークティックヘイズを捕集して成分分析を行った結果からは、多量の硫酸、煤、有機物などが含まれていて人間活動の影響を示していた。春の大気浮遊微粒子の濃度は都市域の大気と同程度である。北極海では冬から春にかけての降水量は少ないので、降水による空気清浄作用はあまり期待できないが、夏の7〜8月には霧や降水量が増えるので、アークティックヘイズは除去されて、夏から秋にかけて北極圏大気は清浄化される。NSR海域においても、夏には視程が悪く目視の効かない日が出現するので、諸島の間の狭い海峡や浅瀬の通過はレーダや衛星航法などに頼ることになる。

 

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海域別月平均低層雲雲量の推移(Herman, 1986)

 

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スピッツベルゲン島にかかる北極層雲(写真:国立極地研究所)

 

 

 

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