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多くの魚種が過剰に漁獲されているにも拘らず、世界的規模でみると漁業資源は良好な状態にある。1994年の漁獲高は91.1メトリックトン(訳注:1metricton=1000kg)であり、これは1993年に比べて5.8パーセント増である111。国家の管轄権の下にある排他的経済水域の内部に存在するか、或いは当該排他的経済水域に接続する公海の内部に存在するかを問わず、主要な漁場がこれまで過度に開発されてきたことに対しては、強い懸念があった。しかし、表立つことはなかった。この過度の開発は、漁獲目標の魚種が乱獲され、その際に別の魚種も意図せずに大量に漁獲されてしまうことによって引き起こされたり、多数の魚種にとって”繁殖の場”となるべき沿岸生息水域が破壊されたことによって引き起こされたのであった112。今まで、問題の漁場から漁業活動を締め出すという方法だけでは、我々が直面する漁業問題を解決することが出来なかったのである113

国連海洋法条約によって拡張された沿岸国の管轄権によって、外国の自国海域へのアクセスは阻止出来るようになった。先進国は、魚が深刻なほど乱獲されるまで有効な手段を講ぜず、また先を見越して何らかの措置を取ることも殆ど考えられないが114、市場経済システムをとっている国が、個別的変更割当量(Individual TransferableQuotas:以下ITQsという)を用いて沿岸海域での漁業を行なっていることには若干の救いがある115。その意味において、漁業資源は保護されていると言える。しかしながら、漁業資源に対する私的権利を認めることは、その権利を限られた者に売買することになりかねないと危惧する論調も存在する。これまでの伝統的な漁業は締め出され、代わって独占的な漁業によって付随する問題が発生している116。多くの発展途上国にとっては、沿岸漁業は、自己統治の原則に基づいた機構の下で、地域の管轄下にあるのである117。この自己統治的機構は、加盟国相互の漁獲高を調整しなければならず、そのための配分を巡っての問題が起きないように、衡平の原則に従わざるを得ないのである118 119

国連海洋法条約は、純粋に沿岸性の魚種については明確に漁獲割り当てを行なっているが、EEZからEEZへ又は公海へと回遊する魚種については、その漁獲割り当てを取り残したままにしている。これは非常に大きなギャップである。従って、特にこのような魚種の漁獲割り当ての決定については、更なる交渉が必要である。ストラドリング魚種及び高度回遊性魚種保存条約(以下、魚種保存条約という)120は、他国の主権を侵害することなく、国際的な要求に則り国家の行動を調整しようと試みた。

 

 

 

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