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米国等は、深海底資源の最初の開発者でありたいと望み、かつISAの意思決定プロセスへの参加を要望したのである。更に、強制的な科学技術の移転についても強固に反対した。加えて米国等は、将来自分達が反対するような科学技術の新たな規則の策定にも反対すると共に、ISAの職員組織は貧弱である上に、その維持には費用が掛かり過ぎると非難した。

ISA準備委員会は、結局米国等の要望の大部分を受け入れた。しかしより重要なことは、当初の合意の変更であり、深海底資源開発はNIEOの秩序とは全く異なる原則の下で行なわれることとなったのである。技術的な問題により、国連海洋法条約第11部実施協定(以下、実施協定とする)は、新たな条約を創り出すこととなった。国連海洋法条約と実施協定は「単一の法律文書」として連接した為に、もしも両者の間に齟齬が生じた場合には、実施協定が常に優先することとなった99。この新たな協定は、言わば「市場に指向した方向性」に基礎を置いた100。それは「費用対効果」に優れ、「革新的アプローチ」101に基礎を置き、「市場原理に則り深海底資源開発を行う」102こととした。実施協定は、その他にも多くの根本的な変更を行った。仮に変更事項について署名国が反対であったとしても、委員会における多数意見は海洋法条約署名国を拘束することとされた103。エンタープライズへの技術移転は、「知的所有権の適切な保護のもと」、「開かれた市場原理により」実施されることとされた104。そして、それらのエンタープライズは、ジョイント・ベンチャー方式により運営されることとされた。更に、国家機関は、エンタープライズの深海底開発活動に対していかなる資金援助も行なわないこととした105。将来における新たなエンタープライズの創設について理論上はオープンとされたが、個人的に筆者は、それはあくまで理論上のことであって実際は些か疑問を感じている。

ISAの決定は、合意方式により理事会でなされる。もしもその決定がISA総会で受け入れられなかった場合には、ISA総会の決定を理事会の決定に代えることはできず、審議を理事会に差し戻さなければならない106。米国は理事会に議席を有しているが107、この解説書を執筆中の時点ではその実施協定には未だ世界的な参加を見ていない108。国連海洋法条約第11部の起草及びその書き換えに膨大な労力が費やされたにも拘らず、国連海洋法条約の深海底資源開発に係わる条項は、深海底資源の開発のための経済的環境が整うまでは実効性を有しているとは言い難い。それは、おそらく次世紀の問題となるであろう。

 

 

 

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