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もしも、第三次海洋法会議において代表団が、深海底利用者が権利保有者、つまり人類全体に、深海底使用のための正当な使用料金を支払うような強制的な条項を設け、結果として深海底の利用者が国際水域の使用について責任ある行動をとるように仕向けられたならば、国連海洋法条約の深海底に係わる部分の交渉は成功したと言えるであろう。しかし、深海底に関する第三次海洋法会議での交渉は、端的に言って失敗であった。つまり南北間で、容認可能な共通点を見出せなかったのである。第三次海洋法会議は、20世紀の後半に噴出した多くの南北対立劇そのものであったのである82

第三世界諸国(訳注:この解説書では、中程度に発展した諸国という意味で使用)は、経済発展は全て新しい公平な条件のもとで行なわれるべきであると主張した83。深海底の開発においては、私的、公的を問わず、全てのアプローチは多国籍エンタープライズを介して行なわれ、それはほぼ独占状態にある。グループ77を構成する諸国は、その他の諸国に対してこの独占状態の維持を強固に主張し、グループ77以外の国は、これに反対し自分達も深海底資源にアクセスできるような条件の設定を主張した。スカンジナビア、西ヨーロッパ及び北米の多くの中程度に発展した国は、グループ77に同情的であり、仲介役を買って出た。そのような中程度に発展した国は、枠組みについてはNIEOに基礎を置くグループ77のアイデアに従いながらも、深海底資源へのアクセスはそれぞれの国が自国の企業を介して出来るようにするべきであるとした。結局双方は和解し、深海底資源の開発はジョイント・ベンチャーとして経済的に合理的な規則の下での独占状態とすることとなった。

それは、これまでの厳格な独占状態を本質的に変容させるものであった。グループ77の態度の軟化にも拘らず、米国からの譲歩を引き出すことはできず、米国は国連海洋法条約の署名も棄権した。深海底開発条項に反対したのは米国一国ではなく、計21カ国が反対した。それらの国の総生産は全世界の半分以上を占めた。米国に主導された主要先進国数カ国にとっては、国連海洋法条約最終案第11部に記されたグループ77の譲歩すら満足ではなかった。深海底に係わる国際的機関についての細部を検討するための準備委員会が発足したが、交渉はすぐに米国等の主要な反対国を説得することに使われた84。冷戦の終結と社会主義の崩壊と共に、先進反対諸国は「社会主義的な」譲歩に以前ほどの興味が湧かなかった85。結局、深海底開発については、ISAが市場原理に従って運用することとなった。

 

 

 

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