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このような傾向は、日常生活における「海」の認識や理解に対して少なからぬインパクトを与えるであろうことは言うまでもない。わが国での教育面での影響を考えると、大学での一般教育での「海」関連科目の乏しさをはじめ、初等〜中等教育のカリキュラムにおける海関連アイテムの貧困が重大問題であることが指摘されるところであろう。

その意味において、立体目次手法を利した幅広い意味での海洋科学周辺事情として自然史科学や日本の博物館というグローブをとり上げる意義は小さくない。

 

4-2-1 博物館での自然史学習─ハンズ・オン思潮を基本に─

1. 日本の自然史学─その特異性─

日本には古来のナチュラルヒストリー発想は存在しない、中国での本草学が物産学との絡みで博物学化した際、自然界における事象の位置付けより、「物」寄りという発想が強かったからであろう。こうして、明治の文明開化期における輸入文化としての日本のナチュラルヒストリーは主として分類学レベルにターゲットが置かれることになった。戦後に至っても、このようなキャッチアップ精神は、良かれ悪しかれ、ずっと継承され、「自然史学」は結局、終始等閑視されてきた。

 

2. 自然史研究と自然史学習

ナチュラルヒストリーとしての立場は、近代化に伴って、深化と細分化が振興した自然科学系の各分野からすれば、むしろ逆行のセンスを持つものであるためか、これを科学の幼期の体質とさえ見る向きもあった。従って、制度教育の中では要素還元発想の基づくカリキュラムが先行したため、自然史的思考は分断され体系化され得なかった経緯が明白である。一般人の「常識」として自然に接し自然を観る眼が高くなるには制度教育は役立たず、同好会や趣味の領域での学習経験のみがこれを涵養することになった。

 

3. 生涯学習時代・高度情報化時代の自然史学習生涯学習時代という社会事情が明確になってきた今日、学校教育での不十分性を教室外学習によって補完できないものかとの期待がふくらんできて、その中でいわゆる体感学習への評価が高まってきているように見える。突き詰めてみるとそれは「実物に触れる」ことの大切さや興味を抱くことの重要性の認識から、「自然そのものが最高の教師」というコンセプトがハンズ・オン思潮の原点となったのである。地球環境を理解するに当たっても、こうした複雑系の扱いには旧来の理科教育では馴染まず、代わってバランスの取れた総体的視野に立つ自然史思考を大切にすべきであるとの考え方が大きく台頭してきたのである。

 

 

 

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