日本財団 図書館


特に、熱水成鉱床の鉱化流体の一部は、海洋地殻に取り込まれていた海水である。

最も消費量の多い工業鉱物資源として、方解石(CaCO3-)を主成分とする石灰岩がある。この石灰岩の大部分は、サンゴや有孔虫など石灰質殻をもつ生物の遺骸である。これらの生物は、海水中に溶存するカルシウムイオン(Ca2+)と炭酸水素イオン(HCO3-)から炭酸カルシウム(CaCO3)を合成している。そこで、現在では、温室効果ガスである二酸化炭素の固定にサンゴが貢献するのではないかと期待されている。

最後に、過去の海域で形成された鉱物鉱床のいくつかを紹介する。これらは、地球環境を考える上でも重要である。

初期の地球大気の主成分は窒素と二酸化炭素であった。このため、初期の生物は嫌気性であった。ところで、生物体の化学組成を簡略化して(CHO2)nで表わすと、生物体が二酸化炭素と水から光合成で生成される反応は、

nCO2+nH2O→(CH2O)n+nO2 (3)

と書くことができる。この光合成反応(3)が進行すると、酸素が発生する。この結果、地球上に生物が発生して以来、流体圏に遊離酸素が存在するようになった。この遊離酸素の量は、その後30億年前から20億年前にかけて、生物量の増加に伴い徐々に増加した。この遊離酸素の増加に伴い、世界的に鉄の鉱床が生成されたと考えられている。岩石が風化されると、その構成鉱物が分解して一部の元素が水へ溶出する。通常、造岩鉱物中の鉄は2価である。2価の鉄の溶解度はかなり高いので、風化の結果溶出した鉄は海へ運ばれ、海水中の溶存成分となる。一方、3価の鉄の溶解度は低い。そこで、酸素分圧の高いところでは、水中の溶存酸素量も多いので、例えば、

3Fe2++1/2O2+3H2O→Fe3O4↓+6H+ (4)

2Fe2++1/2O2+2H2O→Fe3O3↓+4H+ (5)

という反応により、鉄が還元されて酸化鉄(磁鉄鉱あるいは赤鉄鉱)が沈澱する。現在世界で開発されている鉄鉱石の90%以上が、この過程で先カンブリア時代に生成された。

先カンブリア時代に生成した世界の鉄鉱層は大きく、アルゴマ(Algoma)型とシュペリオル(Superior)型に分けられる。前者は、主な鉱石鉱物が磁鉄鉱で、35〜30億年前の生成である。これに対し、後者は、主な鉱石鉱物が赤鉄鉱で、25〜20億年前に生成した。鉄の鉱石鉱物は違うが、いずれの型の鉱床も、磁鉄鉱あるいは赤鉄鉱に富む縞と石英に富む縞が交互にミリメートルのオーダーで繰り返している。このため、通常縞状鉄鉱層(BIF:Banded Iron Formation)と呼ばれる。反応(4)と(5)における鉄イオンと酸素の係数を比較すれば明らかなように、反応(4)は反応(5)より、酸素分圧の低い条件で起きる。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION