日本財団 図書館


2. 人間が海洋生物の環境に近づくことは身体的、技術的理由で困難を伴い、観察や採集を行いにくい。

結果的にその海域に生息する生物の存在すら知られないこともある。特に、深海や外洋では顕著である。例えば、クラゲ類の研究では、従来のネットサンプリングでは断片的にしか得られていなかった体のパーツが、近年の無人潜水艇による映像や標本のおかげで、やっと全体がつながった形で観察され、新種の発見につながったことがある。

3. 静水力や血圧によって維持される構造を持つ生物が多い。

例:クラゲ類の体勢。魚類の鰓。軟体動物の外套膜の一部など。これらは、死の直後には収縮が始まり、原形をとどめない。

4. 体組織が水分に富んでいて、水分の喪失や乾燥に耐えない。

これらの特徴に対して、研究者側は方法論を進歩させて対応してきた。

1.2.に関しては、人間側が潜水技術を発達させて、生物のほうに物理的に近づくことによって可能となった。現在の日本人は、スキューバダイビングにより個人としてふつう50m以浅の海中で、また、有人潜水艇では6500メートルまで自分の目で観察が可能である。

3.については、水中での肉眼観察以外に、イメージ(画)による記録が有効である。スケッチ、絵画といった伝統的な手法はもとより、映像はその客観性において卓越的な方法である。将来的には、生体計測法で用いられるような特殊画像機器によって、生時の「動的形態」を記録、解析することが定法となろう。例えば、狭い空間を長時間観察可能な内視鏡検鏡法や、リアルタイムに軟組織の動的断層像が得られる超音波断層法などがある。

本来は、観察対象が生きているだけでなく、正常な生理状態なのが望ましく、無侵襲・非破壊であることが重要な研究条件である。そのため、映像撮影は生物体に非接触の間接的なデータ取得方法なので、元来の形態を観察するには最適の方法と考えられる。そもそも形態学の記載の大半は、液浸標本や死体の解剖をもとにしたものであるために、生時の外部形態はおろか、諸器官の3次元的配置についても再検討すべき点が多い。

4.に対しては、歴史的には、ホルマリンやアルコールなどの固定液を使用した液浸標本製作法による生体保存技術の進展によって、飛躍的に長時間標本を保管し、研究することが可能となってきた。水中での解剖などの工夫もあるが、解剖行為それ自体が標本に対しては破壊的なので、その過程でも元来の形態を保持し続けることは原理的に不可能である。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION