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これは、太平洋戦争前の、水産物を缶詰にして欧米に輸出して外貨を稼いだ、いわゆる外貨稼ぎの優良産業として水産業をとらえたことが背景にある。小林多喜二の小説「蟹工船」の世界である。日本人のための食糧生産の意識よりは、鉱工業と同様の産業としての位置づけの大きさを感じる。その点では日本の水産は農学ではなく、工業としての位置づけが強い。日本の政策は見事に的中して、太平洋戦争後の日本は水産国日本としての地歩を築き上げた。実学としての水産学を支えるために、関係した海洋学も大きく進歩した。ただ、ここにきて水産資源の減少により、水産業は急速に萎んでいる。これはこれまでひたすら「探しては捕る」ことだけを磨いてきた水産業の当然の帰結である。水産業が産業として凋落してしまっていることは、この分野での海洋学の存在も小さくしている。現在の日本では、水産業は農林・水産として農業と組まれてはいるが、農業の関係者が食糧生産という使命感を強く持っているのに対して、水産の関係者には食糧生産の意識がきわめて低い。どちらかといえば鉱物資源と同じ様な感覚で、ひたすら捕ることだけに専念している面がある。実態は、農林省というよりも通産省的である。こうした考え方を含めて、今後の水産業のありかたが日本の海洋学の運命をも大きく左右する可能性が高い。

この他、日本では気象庁が気象大学校を持ち、海洋分野を担当する高度の技術者や研究者を養成し、気象研究所や各地の海洋気象台で業務と研究活動がすすめられている。また、海上保安庁の水路部でもデータ収集と研究が行なわれている。これらも日本の海洋学の発展に大きく寄与してきたし、これらは現在も健在である。

 

「生物海洋学」とこれまでの研究展開

海洋生物の基礎研究の分野が生物海洋学であるが、似たものに海洋生物学がある。歴史的には海洋生物学の方がはるかに古く、英語ではMarine biologyと呼ばれる。海洋生物学は海にいる生物の研究を目的としていて、対象とする生物を海から取り出して、実験室でいろいろと実験して現象を明らかにするという方法がよくとられる。これに対して生物海洋学は、英語ではBiological oceanographyと呼ばれ、海洋生物の海での生活現象を明らかにすることが大きな目的である。海洋生態学といってもいい。以前は海洋生物学の一分野のような存在であったが、今では独立して性格を明確にさせている。特定生物を考える場合でも、その生物に影響を及ぼす他の様々な生物、さらには物理・化学的な環境についても十分に配慮しなければならない。したがって関係する多方面の研究者との意見交換や、場合によっては共同研究も必要になる。

 

 

 

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