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そのために海上の覇権をめぐって、ポルトガル、スペイン、オランダ、イギリス、フランスの間に激しい闘いが展開され、結局その海軍によって「7つの海」を支配したイギリスが19世紀末には世界帝国を築き上げ「パックス・ブリタニカ」と言われる世界秩序を作り出した。20世紀になると、海上帝国としてのイギリスでは、陸上勢力を代表するドイツによって二度にわたり挑戦されたが、結局イギリスと、その海上覇権を受け継いだアメリカが勝利を占めた。第二次大戦後の冷戦も、一面からすればユーラシア大陸国家としてのソビエト連邦と、海洋勢力としてのアメリカの対決と見ることもできるが、それは海上勢力としてのアメリカの全面勝利に終わった。

21世紀、少なくともその前半は、大西洋、太平洋を支配して世界に勢力を伸ばそうとするアメリカと、ユーラシア大陸の両端からむしろ陸上勢力として発展しようとするEUと中国との政治的経済的(軍事的にはならないであろうが)対立が明確になるものと思われる。その中で日本も選択を迫られることになるかもしれない。

ただし交通路、交易路としての海洋の意義は航空機の発達によって大きく減退した。現在の技術では、空路については、陸上や海上或いは地形や気候はほとんど問題にならない。更にそれが通信経路として利用されている宇宙空間になれば地球の大きさそのものがほとんど問題にならなくなっている。

しかし航空や宇宙技術の発達の華々しさに目を奪われて海洋の物流経路としの重要性を見失ってはいけない。依然バルキーな或いは大重量の物質の運搬には、海上が最も安価で効率的な交通路である。戦後の日本の経済発展、特に重化学工業の発展には、沿海に工場を建設して、原材料、燃料の搬入、製品の搬出に有利な立地に行ったことが大きく貢献している。日本からアメリカの西海岸に自動車を輸送することはデトロイトから陸上、或いは陸路と海路を組み合わせて輸送するより、遥かに容易で、かつ安価に大量輸送ができることは注意すべきである。またオーストラリアも、鉄鉱石や石炭、羊毛などの工業原燃料の輸出国である限り、日本や東アジアの工業国との経済的結びつきを強めざるを得ないのは交易路としての太平洋上のその位置に基づいている。

21世紀になって、状況はどのように変化するであろうか。航空輸送がより一層発達するとしても、それが重量物やバルキーな貨物の運送においてまで海上路に取って代わることはエネルギー効率から言っても不可能である。一方ユーラシア大陸を横断する陸上交通路(鉄道及び自動車)はもっと発展するかもしれない。海上と陸上との貨物輸送についての比重はどのように変わるであろうか。(そのほかパイプラインのような輸送路もある。海底パイプラインも敷設可能であろう。19世紀、無線通信の発達以前に、海底ケーブルがいち早く敷設されて海洋が通信路として利用されたこともあった)

 

 

 

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