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湾奥に大きな河川がある湾における密度流は、エスチュアリー循環流とよばれる鉛直循環流が卓越している。この循環流は、湾奥に注いだ淡水が下層水を取り込みながら上層から流出し、下層からは外洋水が湾奥にむかって流入する流れである。一般に、エスチュアリー循環流の流量は、淡水流入量の10倍のオーダーの大きさである。図3は、ADCP(超音波ドップラー流速プロファイラー)を使って測定した流速分布(測定断面を図2中に示す)から算定した伊勢湾のエスチュアリー循環流である(1994年10月29、30日)。下層から約2cm/s(約2km/日)で流入し、0.8m/日で湧昇し、上層から2〜3km/日で流出している。

海における上昇流(湧昇流)は、海洋生態系にとって非常に重要な意味を持っている。光の届かない深いところにある栄養物質を、光の豊富な上層に運び、植物プランクトンによる光合成を支えている。光合成は基礎生産または一次生産とよばれ、海に暮らすすべての生物のエネルギー源となっている。図4(黒丸)は10年間のデータから求められた伊勢湾中北部における湧昇流の大きさである(藤原ら、1996)。夏季には約0.5m/日、冬季には1m/日の上昇流となっている。冬季に大きくなっているのは、北風が起こす湧昇流が加わっているからである。

図5に木曽三川の流量を示す。夏季に大きく、冬季に小さくなっており、年平均流量は470m3/sである。伊勢湾への淡水流入量は、同規模の内湾である大阪湾・東京湾の2倍以上となっている。図の縦棒は標準偏差幅を示すが、夏季の流量に大きな変動がみられる。つまり、1993年の多雨年、1994年の渇水年のように、夏季の河川流量は年によって大きく変動する。この流量変動は、内湾全体の成層状態や流動構造を変え、貧酸素水塊の規模の年による違いなどを引き起こしていると考えられる。

伊勢湾の成層の季節変動を図6に示す。4月から10月は強成層であり、低塩分水が湾内上層を覆っている。躍層は水深10m付近にある。11月から翌年の3月までは弱成層となっている。一方、伊良湖水道では潮流が速いため、よくかき混ぜられ、強混合となっている。

 

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図3 ADCPで測定した伊勢湾のエスチュアリー循環流。1994年10月29、30日に測定。

 

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図4 伊勢湾中北部の湧昇流(丸;流速スケールは右、流量は左)と鉛直分散による輸送量(四角;スケールは左)

 

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図5 木曽三川の流量、縦のバーは標準偏差幅、1982〜1991年の月平均。

 

 

 

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