特別講演
伊勢湾の流れと水質・生態系のしくみ
藤原 建紀 (京都大学大学院農学研究科助教授)
はじめに
伊勢湾は、東京湾・大阪湾とほぼ同じ大きさの内湾である(図1)。この3つの内湾には共通点が多い。湾奥部に大きな河川と大都市があり、ここには人間活動起源の有機物、富栄養化のもととなる大量の窒素・リンなどが流入している。湾奥はまるい形状をしており、湾の代表的な水深は20m〜30mである。伊勢湾と大阪湾では、湾口部に潮流が速い海峡部があり、伊勢湾と東京湾は外洋に面している。いずれの内湾においても、富栄養化による赤潮、底層の貧酸素化などの深刻な水質問題がこの数十年間続いている。
本報ではまず伊勢湾全体について概観し、第3章では下層で起きる出来事について、第4章では上層と河川水の広がりについて述べ、第5章では流れと水質・生態系の関係について述べる。
概観
伊勢湾の海底地形を図2に示す。湾中央部の水深は3cmであり、伊良湖水道を通じて外洋につながり、南東では中山水道をへだてて三河湾につながっている。伊勢湾の平均水深は19.5m、面積は1,738km2、体積は33.9km3である。一方、三河湾の平均水深は9.2mあり、伊勢湾よりもずっと浅い。このことが両湾の海象・水質環境が異なっていることの大きな原因となっている。伊良湖水道は、北西から南東にのびる樋状の深みとなっており、最大水深は110mに達し、ここでの大潮期の潮流は1.4ノット(0.7m/s)を超えている。神島と三重県の間は岩礁がつらなる地形となっている。伊勢湾には、潮の満ち引きにともなう流れ(潮流)と、淡水が流入することによって起こされる流れ(密度流)、風の力で起こされる流れ(吹送流)がある。潮流は、上げ潮のときに湾口から湾奥に向かって流れ、下げ潮のときに反対方向に流れており、6時間ごとに流れの方向が変わる。