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(5) 精神的援助

Finkの危機モデルを使って事例研究を行った際、精神的に支えることの難しさを知った。

日頃より人間関係を築き上げ、がん患者の心理的特徴を理解し、常に傾聴の姿勢で患者さんの感情に気づき共感していくことが肝要である。状況によっては鬱や不安になったり、怒りや苛立ちをぶつけたりすることがあるが、忍耐強く見守っていくことが大切であり、アセスメントによっては向精神薬の投与も必要となったりするため、日頃よりコミュニケーション技術の訓練が必要である。

(6) 霊的援助

精神心理的援助の中で、生きることの意味、死とは何かと問いかける時がある、神について語ったり、死後の世界を考えたりする。そのような時チャプレンの存在は大きな支えである。

スピリチュアルな援助は、1]生きる意味への問い2]人生の苦痛や苦悩への問い3]罪責感4]死後の世界の話5]希望を持ちつづける6]エンドステージの人間として最後に要求する願い(自己実現)である。常に傾聴し、患者に「あなたを一番大切に思っていますよ」と、私たちの言動を通して感じさせなければならない。

愛の配慮として、顔の表情の温かい人、自分の心を打ち明けようとして苦悩している人に微笑みかけて共感し、その人のためにこの人がいるということを、非言語的コミュニケーションによってアプローチしていく技術が必要である。安易な励ましは避けることである。

(7) 家族援助

患者の家族援助は、患者ケアと同様に重要である。家族プロセスをよく理解し家族の中の一個人を尊重し、患者にとってどのような関係であるか、キーパーソンは誰であり、主な介護者は誰であるか等、家族の構造を理解しておく必要がある。家族にも生活があり、例えば患者が経済的な主役であった場合、生活設計など様々な形で変更していかなくてはならない。

看護者はその家庭の問題などにも関与し、社会資源の活用など提供し、MSWの協力の橋渡しなど行うことが大切である。看護婦は、家族をいたわりながら温かく励まし、時には休息を取っていただき最愛の家族の死が受容できるように、チームのメンバーとサポートしていく必要がある。

患者の病状については医師と相談し、面接の時を持つようにセッティングする必要もある。

死が訪れた時、動揺のないように穏やかに迎えられるよう援助していくことが大切である。また、

─遺族へのケア─

死別後の家族へのケアも大切で、ホスピスではお見舞いのカードを送ったり、遺族会をして個人を偲ぶメモリアルサービスも行っている。

看護者は倫理をよく理解して、患者の人間としての権利や尊厳に関る諸問題を考え行動しなければならないと思う。医療スタッフは、常日頃より意識して行動を取り、看護における倫理的判断のよりどころを正しく意識するため学習していかなければならないことや、インフォームドコンセントを自分のものにするため、訓練していかなければならないことを痛感した。

 

おわりに

 

心のケアや新しい総合的人間的アプローチの必要性が国際サイコオンコロジー会議の中で問われ、がんに対する総合研究、がん患者に対する心の研究、さらには臨床に携わる医師・看護婦・ボランティアの養成など、また、がん治療・心身医学・精神医学・臨床心理・看護学会などと連携した共同研究が新しい潮流となっている。

その中にあって、心を喪失したモノだけに走ってきた日本は、経済だけでなく医療においても忘れ去られようとしている。

今回の研修もこの現状を考えるとき、ますます重要な意味を持つことを思い知らされた。

日本においては、まだまだ緩和ケアホスピス病棟は少ない。我が病院においても具体的な緩和ケア病棟の設置については未定だが、ホスピスケアの基本をふまえ、一般病棟においても“「人の死」とは何か”ということを意識しながら、人間の尊厳の源は何処にあるのかを考え、行動実践していきたいと考えている。

 

 

 

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