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心理的援助

 

ホスピスにおいては、患者の終末期を援助することになるが、個々の患者は病気の診断から治療及び闘病生活を経てきている。その中でどのような心理的プロセスをたどり今に至っているのかを、より深く理解することが重要となる。患者は、その全期間を通して精神的な痛みを持ち続けている。不確かさに対する不安やいらだち、死に対する恐怖、痛みに対する恐怖等、実に様々なストレスが生み出される。患者のコーピングメカニズムを理解し促進するためにストレスコーピング理論を用いることが有効である。しかしストレスがあまりに大きいか、あるいは適応能力が不十分であれば、適応障害や病的な精神症状が引き起こされることになる。精神症状に的確に対応するためには、十分な観察とアセスメントが必要となる。症状をどのようにとらえるかで、さらに患者を追い込む結果になることもあるからだ。

吉田先生の講義で学んだ危機理論についてはどのような理論的基盤に基づいて発展してきたのかという概念を理解し、診断的問題解決や臨床的介入を結び付ける鎖として危機モデルを活用し、危機介入をより効果的に行っていきたいと思う。今まで臨床で理論を用いての心理的援助は十分できていなかったが、適切な裏付けをもったケアを提供していくという意味で非常に重要だと感じた。

 

スピリチュアルケア

 

緩和ケアでは、ケアの対象者を全人的痛みをもつ人間として理解しなければいけない。その一つ一つは相互に作用し合っていて、切り離して考えることはできないが、それら全てに深く関わる人間存在としての根源的な苦痛をスピリチュアルペインとしてとらえていた。

実際の看護場面での自分を振り返ると、患者が様々な喪失体験や苦痛な症状から「生きている意味がない」等と表現されて、初めてスピリチュアルペインに気付き、その言葉の重さになすすべなく、自分の無力さを感じていた。

しかし、この研修を通して人は誰でもスピリチュアルニードをもっていて、日常会話の中からでも、それをキャッチしていかなければいけないということに気付かされた。沼野先生の講義の中で、スピリチュアルニードをキャッチするための視点とそれに向き合う時の私達の姿勢を学んだ。

生きる意味や苦悩への問いかけは、患者らが自身に問いを発しながら歩んでおり、最後まで見つからないかもしれないが、看護婦は歩みの中に共にいることしかできないということ。大切なのは、いかに忍耐をもってかかわりきれるかということ。死についての問いかけに対しては、看護婦も自分の死生観をもってそのことについて語ることが大切だということ。そして、どんな状況にあっても人は希望をもち、そしてそれがなければ人は生きなられないということ。私達は人間としての最後の、大切にされたい、愛されたいという希望を支えなければいけないこと。患者が必然的に出会わなければいけない、最後の人間として私達看護婦は、人格的なふれあいの中でなぐさめや癒しの器になる使命がある。これは、私が一番印象に残った言葉である。深く心に刻みつけたい。

スピリチュアルケアとは、痛みが表面化している人だけを対象とするのではなく、すべての人にニードがあることを認識し、時には患者が自己の内面にあるスピリットに気付くための問いかけを発していく必要があるということも学んだ。私は、患者のスピリチュアルな側面に関わる一人として、また、スピリチュアルペインをもつ一人として人間を超えた大きな存在、力を感じ、身をゆだねる気持ちをもっていた。そして、そこからおくられた人間の存在の尊さ、意味を自分の中で見つめ直したい。

 

家族ケア

 

緩和ケアにおいては、家族も看護の対象として援助することを原則としている。

家族成員が終末期を迎えることによって家族がうける影響は今まで学習してきており、それは、予期悲嘆、病状告知に関するストレス、苦痛に対処できない無力感、患者の死後の生活に対する不安、介護による身体的負担等その課題の多さと深刻さは言うまでもない。この研修では、その一つ一つに対して家族が対処していけるための基本的な援助姿勢と、具体的なアプローチの手段を学んだ。

 

 

 

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