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3) 家族のケア

1] プライマリーナースにもよるが、適宜面談をしている(家族が疲れた様子の時や、患者の死が追ってきた時など)。

2] 医師のムンテラに同席する(ムンテラの後、疑問に思うことや不安などの情報収集とそれに対するケア)。

3] お別れ会(患者が亡くなられた時、家族の了解を得て10分ほどそこにいる医療者、チャプレン、家族でお祈りと賛美歌を歌う)

4] 家族会の開催(メモリアルホールで、今まで亡くなった方々のご家族にお知らせして、医療者と共に故人の思い出を語り合う)

5] お手紙を出す(亡くなられて3か月後くらいに、お伺いのお手紙を出す)。

「できるだけ患者さんと共に家族もケアしなければならないが、忙しくてそこまで手がまわらないのが実際です」と話されていた。しかし見ていると、できる限りの時間を見つけては、家族に声かけされていた。短時間でも中身のあるケアをしていくことが大切だと思う。

 

最後に、今回の実習を通して一般病棟でどんな緩和ケアを提供できうるか考えてみた。私の答えは一言で言うと、ソフト面があればどんな所においても緩和ケアはできうる、ということである。確かに、りっぱな病室があって、看護婦の数も多くて、というハード面もあるにこしたことはない。しかし、バプテスト病院の看護婦さん達を見て思ったことは、そこで働く医療者側に「緩和ケアの心を持っている」人々が存在して初めて緩和ケアが提供できうるのだということである。今回の実習中に、以前は大きな病院にいてその後ホスピスに入院されてきた患者さんに、次のようなインタビューをした。「以前に入院していた病院とここの違いを教えて下さい」。そうすると、考えていたよりずっと厳しい意見が出てきた。「ここに来るまで本当に辛かった。ひどい仕打ちを受けた。告知なんて、ある日突然に『がんです。予後3か月です』って言われた。言うだけ言って後のことについての助言なんか何もなかった」、「看護婦さんはいつも忙しそうにしていて話なんか聞いてもらえなかった。ここに来て、ケアをしてもらえるということとは、こういうことかと思った」など、患者さんや家族の方から実にさまざまな本音が聞けた。

私はこれらの患者さん達とゆっくり話をするうちに、傷付いて疲れ果てておられる患者さんやご家族を目の前にして、申し訳なく思って胸が苦しくなった。そして、よく考えてみると、これらの患者さんやご家族のお話は、ハード面のことは一つも言われておらず、みんなソフト面のことを言われていることに気付いた。正直言って、今回実習に行ったホスピスは、建物も古く風呂場やロビーも狭くて立派とは言えない。しかし、医療者一人ひとりが患者さんの立場に立って医療を提供されており、患者さんやご家族の表情は残念ながら一般病棟では見られないほどの、やさしい穏やかな表情をされていた。これらのことから、一般病棟においては忙しいことを言い訳にして、医療者に「患者さんに対する思いやり、その人らしく接すること」という基本的なことが不足しているだけかもしれないと思い始めた。

よく考えてみると、患者さんにもいろいろな方がおられる。できうる限りの治療をし続けながら、最後まで一般病棟にいたいという患者さんもおられたりする。そのような患者さん達のためにも、一般病棟でも緩和ケアの心と技術を持った人材の育成が望まれる。また、一般病棟においては入院してくる患者さんの病期もさまざまである。働きざかりの方が定期検診を受けて思ってもみなかった理由で入院となるケース、さまざまなドクターショッピングをしてこの病院に来られたケース、外来でドクターの説明に納得のいかないまま入院されてくるケースと、またホスピスとは違った側面で危機的な状態にある患者さんも多い。そんな中で一般病棟においては、より一層の受け皿というものを作っていく必要がある。

バプテスト病院の看護婦さんが言っておられたが、「大学病院だし、すぐ近くにそれぞれのプロの先生がおられる。痛みがあればペインクリニック、患者の精神状態が予想以上に悪いようなリエゾン、放射治療がしたいということならすぐ放射線科に紹介できる。そんな恵まれたところは、なかなかない」。本当にそうである。患者さんの立場に立って、時に患者さんが望むのなら、よりよい治療と同時に緩和ケアを提供していく。それが私達大学病院のあるべきスタンスであると思う。そして、これらを可能にするには、やはりまずそれぞれの医療者が「患者さんらしさを大切にする」という緩和ケアの心を持てるようになること、特に看護婦は患者さんの立場に立ち、「キュアとケア」がよりよい状態で提供できるように擁護していくこと、また、たくさんの部門が円滑に運ぶようにナースが橋渡ししていく役割も大変重要なことである。

大学病院だから、あれができない、これができないなんて文句ばっかり言ってないで、帰ったらまず、すぐできること、患者さんのベッドサイドに行ってゆっくり話をする、家族と話してみるなど少しずつやっていきたいと思う。そして、少しでも緩和ケアの心を持った医療者が増えていくよう、より一層研究会を充実したものにしていきたいと思う。

 

 

 

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