日本財団 図書館


症状コントロールは、適切なアセスメントが重要であり、その人に生じている症状のメカニズムを明確にし、その人に対する援助方法を決める必要がある。大切なことはその人がどう体験しているかであり、その体験をありのままに受け入れ、アセスメントや援助の評価の大切な視点にすることだと考える。研修では、症状の一つずつについて専門看護師や医師から具体的な援助の方法を学ぶことができた。緩和医療の現場で働く医師や看護婦は、症状コントロールのための知識や新しい情報を入手し、研究的に取り組むことの重要さを改めて確認できた。

 

緩和ケアにおける日常生活の援助

 

この研修を通して改めて「日常生活」について考えてみた。一つ一つの行為に意味があり、その人の思想が流れている。その人が今体験している、その中に様々な感情や思想を内包している。今体験していることを大切にすることが、緩和ケアでは特に大切だと思う。気持ちよい、美味しい、できるという心地よい感情を通して「生きている」ということが実感でき、希望がもてる。看護婦は日常の卑小と思われるような小さな行為にも大きな意味があることを認識し、患者の行為の一つ一つに熟練した技術で、心地よいと思える援助を提供することがQOLの向上につながると考える。

また今回の研修で看護とリハビリテーションについての考え方の整理ができ有意義であった。ボディメカニクスの視点で看護技術を見直し、他の専門家と共働した日常生活援助も大切であると考える。

 

コミュニケーションスキル

 

病名の告知や苦痛な症状や社会からの離脱は様々な心理的緊張をもたらし、人は何とか解決しようと様々な対処行動をとる。医療者はそのような危機的状況にある患者に専門的にアプローチし、よりよい適応ができるようにそのプロセスに沿うように導いていく役割がある。またターミナル期の患者は危機的状況からうまく回避できたとしても、「何のために自分は苦しむのか」「生きている意味があるのか」など存在そのものへの苦悩(スピリチュアルペイン)をもつ。健康な時と違って解決の糸口が難しく、悶々とした苦しみの中にいると推察できる。

人は人との関係性の中で悩み、傷つき、癒され、成長するものだと思う。だからコミュニケーションが人と関わるすべての基本であり、希望や安寧をもたらしQOLを高めることもできると考える。緩和ケアにおいて、上記のような治療的関わりが必要な時はもちろんのこと、患者と関わるすべての場面で、患者の苦悩や体験を共有するためには、卓越したコミュニケーション・スキルをもつことが要求される。スキルは、一つ一つの関わりを関係性のズレに注目して振り返り、あるがままの自分を受け入れる体験の繰り返しで磨かれていくものだと思う。看護婦である自分も患者や関わりをもつすべての人から癒され育てられていると考える。

 

家族ケア

 

がんと知らされ、患者への告知の決定まで任せられた家族は、告知された患者と同じように危機的状況におかれる。しかし家族は患者のサポート役を務めなければならず、衝撃や困惑を素直に表出することは許されないことが多いのではないかと日頃の中で気掛かりになっていた。“家族がどのように関わったらいいのだろう”が、この研修のグループワークの私のテーマだった。

家族の機能や家族が問題に巻き込まれつつ適応していく過程が理解でき、看護が家族をどのようにとらえ、どのように関わるかが講義を通して見えてきた。臨床でしばしば、“どの範囲まで家族といったらいいのだろう”と思う家族に出会う。家族形態が変化し、いたわり合う家族でいられないような問題が、それぞれの家族の中にある状況を理解していく必要がある。しかしどのような家族も、問題を解決できるのは本人とその家族であり、看護婦は自分の家族観や価値観を押しつけることなくサポートすることが大切である。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION