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しかし、考えが変わったら、いつでも話していいことを患者に伝えておいた。つまり、医療スタッフはいつでも患者の考えを受け入れる体制があることを患者に伝えるという対応をとっていた。

終末期患者の心は常にゆり動いているからである。しかし、それは、死に直面し、それを受け入れるためのプロセスである。私は、ホスピス実習を通し、医療従事者は患者の意志を尊重し、患者の権利を擁護していくことが必要であると実感した。私達は患者に看護を提供する際、そのことによって患者のQOLを高められるかをよく考え、行動していかなければならないと感じた。

 

2) チームアプローチについて

私が実習したホスピスでは医師、看護婦、薬剤師、栄養士、MSW、看護助手、宗教家、調理師、環境整備員等約50名のスタッフと教育されたボランティア約70名がチームとなり、同じ理念を共有しながらケアを提供していた。毎日の申し送り、カンファレンスは医療スタッフ全員が参加し、積極的な意見交換をされるなど、そこではスタッフの上下関係はなく、良きパートナーとしてケアに取り組まれていることがよく理解できた。多様な価値観を持っている各自が、お互いの違いを受け止める柔軟さを持って対応することの必要性を学ぶことができた。しかし、自分の勤務している病院を考えると医師、看護婦をはじめ、放射線科技師、検査技師、薬剤師、栄養士等が同じ理念を共有し、患者、家族に医療を提供しているかを考えると疑問が残る。私はターミナルケアを行う中で、医師と価値観が対立することがある。医師も患者のことを考えての善意からでた対応ではあるが、話し合いがなかなかできなかったり、意見の一致をみない場合、倫理的ジレンマを感じる。確かに看護婦も医師も人間であり、立場の違いからも価値観の対立が起こるのは当然である。しかし、「患者にとって良い医療を提供したい」という気持ちは同じである。私は、今回の研修を通し、「異質を取り入れるのがチーム医療である」「どんな他職種ともチームを組んでいかなければならない」ということを学んだ。今後は、他職種ともお互いの立場を理解し、相手を尊重することで、信頼関係を形成し、患者さんのニーズにそった看護を提供していきたい。

 

3) 症状コントロールについて

WHO方式がん疼痛治療法が提唱され、痛みの90%はとれると言われている。しかし、患者の痛みは多種多様であること、また、医療者側の問題として医師、看護婦の知識不足、固定観念、誤った認識などにより、患者の痛みを十分コントロールできていない現状がある。私は講義の中で「症状は患者が主体になって取り組む」ということに大変感銘を受けた。しかし、考えてみれば、症状は主観的なものであるため当たり前のことである。進行がんにおいては、根本的治療ができないことが多いが、症状の緩和は看護婦のアセスメント能力次第で緩和できることもある。患者さんが苦痛を訴えた時、その苦痛の原因を明らかにし、どんな些細な訴えにも対応していくことが必要であることを痛感した。

講義の中に、症状マネジメントできていない時は頻回に患者の所に行くとの話があったが、大変重要なことだと思った。

今後は臨床の場で、今回学んだ知識を生かし、患者の状態をアセスメントし、患者が苦痛を感じず、より快適に療養生活が送れるよう援助していきたい。

 

4) 家族への援助、遺族ケアについて

私は今まで患者さんの家族に「こうあってほしい」という自分の価値観で家族をみていたように思う。以前、食道がんの末期の患者さんが、通過障害があり、流動食しか通らない状況であったにもかかわらず、退院を強く希望した。医師は在宅療養は難しいとの判断で退院許可を出さなかった。家族は患者が苦しがった時の対応が不安で退院を拒否していた。患者は「家に帰りたい」という希望がなかなか通らないことに苛立ち、自分で高カロリー輸液のチューブを抜いた。

 

 

 

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