日本財団 図書館


1) 症状コントロールについて

症状コントロールの良否は、生活行動範囲を決定し、QOLやセルフケア能力の維持に大きな影響を及ぼすことに改めて気づけた。症状の原因や出現の状況をアセスメントし、治療やケアの効果を常に判定し、医療チームでカンファレンスしながら、コントロール状況を評価していくことが大切であると学ぶことができた。

 

2) スピリチュアルペインについて

この実習で貴重な体験ができた。ある日ぽつりと「生きているのがつらい」と話された。「自分がこうして生きていることは家族に迷惑をかける」「何一つ家族の役に立てない」という。家族の優しさやいたわりがありがたく、それ故に苦しいのだという。私はその感情をありのままに受け入れようと聴いた。

人はいつも自分が今生きていることはどんな意味や価値があるのだろうかと、自分に問いながら生きている。それはいつも人と人の関係の中で生じる。相手を通して自分の存在の役割を感じたり、否定したりするものだと思う。私はこの研修の中で、今までの経験は私にとってどんな意味があったのだろうかと、自分の価値について問い直してみる体験をした。健康な私の苦悩は一時であり容易に自分で解決できた。しかし、病気や予後の告知を受け、いつも死と向き合いながら生活する患者さんにとっては、直面する死への恐怖や隈りある時間の中で、その苦悩は計り知れず、一人で悶々とした時を過ごしていると考える。自分の体験を通して、少しであるが受け持ち患者のスピリチュアルな痛みが実感でき、その苦しみがじわっと伝わった気がした。患者の体験していることに傾聴し追体験することで、スピリチュアルな痛みへの共感ができ、今ここに存在していることに意味を見出せるような関わりができるよう努めていきたい。

 

3) 緩和ケアと在宅ケアについて

受け持った事例は、入院期間が1年半になる。看護婦は在宅に向けての働きかけをしていて、数回の外泊を試みていた。痛みがすっきり取れないことや、麻痺やしびれによる歩行障害を歩行できるまで訓練したいという本人の希望があり、入院が継続されていた。家に帰っても夫の仕事が増えると夫への気遣いもしていた。しかし次回の外泊の日を楽しみにしていることから、可能なら在宅で過ごしたいと思っているだろうと想像できた。

在宅が必ずしもその人の自己実現にとってふさわしい場所とはいえないが、症状コントロールができ、生活環境の調整やサポートシステムが整えば、在宅での日常の生活が可能になり、日常の中での自己実現が可能になるだろうと考える。ケースワーカー等の働きかけや家族の力も借り、社会資源の活用や支援のネットワークの輪を広げることも緩和ケアの大切な役割であることも理解できた。また症状コントロールの評価や調整のため、家族の調整のためにレスパイトケアも大切だろうと考えてみる機会になった。

 

おわりに

 

緩和ケア病棟の開設に向けて、施設の準備や看護の基準や記録、カンファレンスのもち方などの具体的な運営について多くアドバイスをいただき、考える機会をいただいた。緩和ケア病棟を立ちあげてきた看護婦の地道な活動を伺い、少しでも役立てていけたらと思っている。

実習を受け入れて下さり、学びの機会をたくさん与えて下さいました国立療養所東京病院の看護部長はじめ、緩和ケア病棟のスタッフの皆様、そして患者やご家族の皆様に感謝申し上げます。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION