日本財団 図書館


生きている意味を見出せるように

 

静岡県立総合病院

齋藤 伸子

 

はじめに

 

緩和ケアに取り組んでみたいと思っていた私の希望が、思い掛けず早期に実現することになり、この研修に参加できた。実習は特に期待した科目の一つであった。緩和ケアは特定の場所がなければできないのではないが、私の勤務していた病棟では治癒を目的とした治療と緩和ケアの必要な人が混在し、苦痛の軽減やADLの維持や拡大の努力は可能であっても、患者が死が訪れるまで積極的に生きられるような支援や、家族の死別後も含めた苦難への対処の援助には限界があった。そこで生活環境も含めたその人の生活を大切にできる場の提供は必要だと考えてきた。

そこで今回この隣地実習に臨み、その人の生活を大切にできる場として緩和ケア病棟がどのように運営され、チームアプローチのためにどのように婦長や看護婦が機能しているか、また家族のケアやボランティア等について、新棟開設のための具体的な課題が認識できることを目的とした。

実習では一人の患者を受け持たせていただいたので、受け持った患者のケアを通して考えたことについて述べたい。

 

緩和ケア病棟の運営について

 

開設して5年目になり、看護婦が中心になり、患者の立場に立って患者の望む生活を提供しようと一つ一つ丁寧に取り組み、積み上げてきた手作りの緩和ケア病棟という印象を受けた。

HIVの緩和ケアを目的に開設したこともあり、患者のプライバシーが守られるよう様々な配慮がされていた。

緩和ケアチームは兼任の医師と看護婦が中心であり、必要な時他職種にも参加していただくようになっていた。チーム間の連携をもつために医師と看護婦で合同カンファレンスをもつ努力をされていた。婦長さんは他部署の看護婦や他部門との連携に努力され、チームがうまく機能するよう組織の関係も大切にしている様子が伺えた。

実習を通して、緩和ケアチームの運営で大切なことは、施設の理念を明確にし、理念に立ち返って問題解決することが大切であるということが理解できた。また緩和ケアチームがうまく機能するには、携わるすべての職種が緩和ケアの理念を共有できるよう、開設の時点からチーム作りをすることが大切であるとも認識できた。

そして看護婦にかかる精神的な負担を軽減するように、チームのコミュニケーションにも心掛けることの必要性も学ぶことができた。

 

受け持ち患者のケアを通して

 

事例では肉腫による仙骨の骨破壊による疼痛のため、MSコンチン1,440mgを使用しているが、疼痛は常にフェイス・スケールで2〜3の痛みが持続しているという。いろいろなコントロールを試みたが、現在の内服のみの方法を本人が望み、1年以上この状態が続いている。骨破壊による神経症状に伴う左下肢のしびれと麻痺のため車椅子を使用していた。モルヒネの副作用で、刺激がないと眠ってしまう状況であった。そのような状況下でも看護婦のサポートにより、自分の生活スタイルを維持するために、歩行や移動の訓練をし、ゆっくりでもADLが自分で行えるようになりたいと努めていた。発病前は図書館の朗読ボランティアをしたり、合唱団に所属した生活を送っていた。1日の大半を車椅子で過ごし、作業療法で作品を作ったり、そこで関わる人とのコミュニケーションを大切にしたり、自分らしい生活を周りのサポートがあればできる高いセルフケア能力を維持できていた。

 

 

 

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