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以下に具体的な緩和ケアの実際について学んだことを述べる。

 

1) 症状マネジメントについて

今まで文献などではわからなかった細かい部分での症状や時期などのアセスメントに加え、薬剤の使用の仕方など実際を知ることができた。衣笠ホスピスでは、一年が経過し手探り状態であったものがようやく形になってきたというように、経験から学ぶものは大きい。実践することは今後の課題である。がんは決して苦しみながら死を迎える病気ではないことを、何よりも実感として学ぶことができた。

 

2) チームアプローチにおけるカンファレンスの重要性

スタッフそれぞれが知識・技術を学ぶと同時に、カンファレンスで意見の交換、検討を行うことがいかに重要か。特に、プライマリー制で個室であれば、多くの看護婦の目で患者を観、判断することが難しい。当然患者の情報は少なくなり、一人の看護婦の判断ですべてが行われてしまうことによる危険性は高い。看護婦だけでなく、医師や他のスタッフについても同様である。衣笠ホスピスでは医師と日勤の全スタッフにより、当然のように毎日2回(朝・昼)カンファレンスが行われている。MSWや栄養士、PT、牧師、ボランティアなども自主的に参加している。講義ではカンファレンスの必要性を繰り返し学んだが、スタッフ全員でカンファレンスを行うということは無理に等しいと考えていた。また、少数でもカンファレスを行うことの重要性を十分感じていなかったのではないかと気づいた。講義、実習を通し、カンファレスは単なる情報交換の場ではなく、チーム員の役割の確認、教育、動機づけ、問題解決、その他多くの意味を持ち、チームアプローチを行ううえで必要不可欠であることを再認識することができた。

 

3) 家族援助について

終末期における患者・家族の関係は、互いの心身に大きな影響を与える。「家族のストレス源は患者の苦しんでいる姿である」という。まずは、患者の身体的苦痛緩和が最優先される。ホスピスにおいては、一般病棟では見えにくかった家族関係が浮き彫りにされるようであった。特に終末期の患者の家族援助に関して看護の果たす役割は大きいことを実感した。家族援助の目的は、終末期の家族成員を含む一単位としての家族の対処を促すことであり、家族のセルフケア機能の向上への援助であると学んだ。これはカンと経験だけでできるものではなく、理論的にアプローチを行っていくことが必要となる。短期間の入院で最期を迎える患者・家族も多く、早期に家族の力量をはかる視点、早期に問題を発見する能力が看護者に求められる。

現実問題として、実際の医療現場では患者にどのような余生を送ってもらうか、家族にいかに看取ってもらうかなどの重要事項の決定に医療者の意向が強く反映している傾向がある。また、医療者の理想の家族から逸脱した家族は問題の家族として捉え、キーパーソンとは医療者にとってのキーパーソンになっていないかなど、考え直さねばならないことは多い。

 

4) スタッフ教育について─“傾聴”の大切さ─

衣笠ホスピスでは開設前から、看護婦とボランティアの教育が計画的に行われている。特に“傾聴”に関する教育は特徴的である。新採用の看護婦は2か月間の教育プログラムを受け、その間毎週“会話記録”の検討を行い、傾聴について繰り返し学習していく。その後も継続的に週一回の学習会を持ちフォローアップを行っている。外来講師(東海大学・村田久行教授)による指導を得ている。“傾聴”のできる看護婦の育成は、ホスピスだけではなく看護部としての方針である。これは、対象を尊重した看護を行っていく上での基本的姿勢である。にもかかわらず、実際には看護教育の中で“傾聴”とよく言葉にするが、如何に訓練されていないかと再認識した。コミュニケーション・スキルとして、自然に身につくものではなく、看護の専門職としての訓練の必要性を痛感した。

 

 

 

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