山本 私は油壺に入るために三浦半島の諸磯湾を回るとき、うねりで岸に寄せられ岩に乗り揚げたことがあります。十秒くらいガタゴトしておりましたが、幸いよい波がきて離礁することができました。自分は岸に近づいていないと思っていたのですが、一波ごとに寄せられたのでした。それ以後岸に寄せられないように、沖よりのコースをとるようにしています。
また、初めて入る漁港の時は、事前に海図で調べるようにしています。
もう一つは、漁船が底引き網漁を終わってスピードを上げて近づいてきて、私のヨットの後ろをすれすれでかわり、ヒヤッとしました。後部甲板での網の補修をしていたようで、漁船のブリッジには人はいませんでした。
根本 私は漁船をみたら、自動操舵に任せ作業していてブリッジ無人航行が普通だと思うようにしています。
菅野 自動操舵で航行中にいねむりや他の作業をしていての事故が多いようです。真っ直ぐ向かって来る船は前を見ていないのではないかと一応疑うのが賢明かもしれませんね。
ある法則によれば、一〇回のヒヤリハットは一回の事故を呼ぶといえます。ヒヤリハットはない方がよいのですが、生きた教材とも言えます。事故にならなくてよかったとホッとするだけでなくどうしてそのようになったかを反省、検討することが、事故防止につながります。また相手船の方が悪ければコンチクショウと思うだけでなく反面教師として学ぶことですね。
思いやり航法
菅野 最近はモーターボートの増加など高速船が多くなっていて、海上交通の形態も変化してきていると思われます。大型船は小さい船がよけてくれると思っているのに、小さい船はこちらはすぐよけられるからと思っており、お互いの危険予知判断に大きなギャップがあることが問題と思っています。
大型船との関係をどのように感じ、またどのように心掛けておられるかをお聞きしたいと思います。
根本 私はこちらがよけられるならよけるように、よけられないならよけないようにこちらの意思が相手にはっきり分かるように操船するようにしています。避航船と保持船という関係ではなく早めにこちらが大きく舵をきることにしています。衝突したら終わりですから……
菅野 大型船とスピードのある船との関係について、私は「思いやり航法」ということを提唱したいと思います。
分かりやすい例をあげますと、皆さんも車で高速道路の左車線を走っていてサービスエリアからの進入路に出てくる車を見たら、早めに車線変更して進入車が車線に入りやすいようにしていることでしょう。これはマナーというよりも相手の気持ちを汲んでの「思いやり運転」だと思います。心の問題です。
海上でもプレジャーボート等の小型船が大型船と遭難した場合は自分が相手船の操船者の立場だったら……と考えれば、自ずから早めに変針する気持ちになるのではないでしょうか。周囲の状況にもよりますが、針路がクロスしている場合は相手がいつよけてくれるかハラハラするより、私は早めの「船尾ヨーソロ!」で気分も楽に、安全運航に努めていました。
山本 思いやりを小さいときに教育するとそれがモラルとかマナーになっていくのだと思います。思いやりがないといくら法令をつくっても安全は守られません。それを教えるには実地で体験し覚えていくしかないでしよう。できれば親子セーリングが理想なんですが。