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われわれは、予定通り早速適当な場所にもやい銃をすえ、射角を何度か変えて発射したが、距離があるうえ、強い向かい風のため小島までとても届かなかった。時間は過ぎて行く、釣人は昨日来の空腹・不眠・寒さ・恐怖等で相当参っているに違いない。今日中に助けなければならない。

 

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参考写真(この記事とは関係ありません)

 

そこで、部長以下で再検討した結果、最初最も成功率が高いと思われたもやい銃による救出は断念し、“今日の夕凪を待って数隻の小型木造漁船に巡視船乗組員(以下「海上保安官」という)を一人づつ乗り組ませ救出を行う”ことになった。これには次のような利点があった。

1] ここの漁船は船首が若干張り出し気味で、喫水も浅いので、船体が岩場に当たりにくい。

2] 漁船は浅いので波乗りがよく、エンジンの前後進も比較的すぐ効く。

3] 何といっても、地元の漁船船長は付近海域、特に、この岩場付近のことをよく承知している。

そこで、漁業組合長を訪れ協力要請したところ、数隻の漁船船長は自ら進んでこれを引き受けた。要するにボランティアであった。

救助体制は、漁船船長が操船、海上保安官一人が救助作業と小規模とはいえ官民一体の体制が整った。

夕方、若干風が衰え、波が小さくなったように見えた。「今だ」漁船数隻は岩場近くに進出した。各漁船はエンジンを小刻みに使って船首を岩場の方向に保ち、小波がくるのを待った。救出方法は漁船にあらかじめ番号を付けておいて、一番船が失敗したら、二番船等々と決めておいた。

一つ、二つ…大波が来るたびに船体は大きく上下、左右動した。何枚か大波が来ると今度は小波が来る。この小波が来るうちに救出しなければならない。

漁船船長と海上保安官の呼吸がぴたりと合った。

「エンジン前進」これに気づいた釣人は波をかぶりながら高い所から下りてきた。漁船船長は巧みに船を操って素早く船首を釣人のいる岩場へ近づけた。

「二メートル、一メートル」船は岩場に近づく、エンジンは既に後進に入っている。海上保安官の大声「あと五〇センチ飛べ」

海上保安官は手を差し出す。釣人は必死に岩場を蹴った。海上保安官は空中にいる釣人の腕を掴むと力いっぱい船へ引き寄せた。そして、釣人と重なり合って船内に倒れた。

「救出成功」

海上保安官は沖にいる白い巡視船の姿を見て“わが子の安否を見つめる母親”に思えたという。

 

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