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例えば、点Bでは2.37×10-2という値になりました。

 

解析の結果

 

本報告で求めた確率は、当時の一般船舶の事故発生確率ではなく、あくまでタイタニック号という特定の船がその特有な環境下でどの程度の確率で事故に遭うかを求めたものです。

その結果、タイタニック号の航海では、その事故と同等以上の海難事故が発生する確率は平均で、およそ四二航海に一回(2.37×10-2回/航海)という非常に大きな値であることが分かりました。九〇%の信頼度での値ならばおよそ二九航海〜七一航海に一回という値です。

 

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タイタニック号=画・野上隼夫

 

これらの値から、タイタニック号事故は非常にまれな事故ではなく、確率的にはむしろ起こるべくして起こった事故であるといってよいのではないかと思います。

前方を監視する設備も無いまま、警告を無視して夜間に流氷原を高速航行している上、事故時の救難救助体制は不十分なものでした。このような状況下での航海がいかに危険なものかが改めて示されたといえます。

その後、タイタニック号事故が契機の一つとなって種種の安全対策がとられるようになったのは皆さんもご存知のとおりです。その結果、現代では当時と比較にならないくらい安全な航海が行われるようになっています。

図4には参考として一九七八〜一九九五年の統計データから得た事故発生確率を付しました。これと比較してみると、現代の船旅が非常に安全であることがわかると思います。

今回は触れられませんでしたが、ここからさまざまな解析をすることも可能です。例えば、救命ボートが十分な数装備されていたらどうなっていたか。船長が流氷原ありとの警告を受けて確実に減速していたらどうなっていたか等々。これらのもしに対して事故確率をどの程度減らすことができるか、逆に最も効果的な対策は何だったのかなどを推定することができます。

 

図4 解析結果

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例えば、流氷原を前に減速するだけでは事故確率は三割強程度減らせるだけであり、十分な安全を確保するには、前方監視のための進んだ装備と、周囲の船舶を含めた救難救助体制が機能していることが必要であることがわかりました。

 

おわりに

 

今回は確率論的安全評価法を適用して、タイタニック号事故の解析を行いました。

確率論的安全評価法は万能ではありませんが、その特徴をよく知り、上手に使うことで今まで漠然としか捕らえられなかったことを数学的に分析できる強力なツールとなります。確率論的安全評価手法が種種の分野にも適用され、安全確保に関する議論が一層深まることを期待致します。

(注)さらに詳しく分析を知りたい方、また、ご意見・ご質問等ある方は、ホームページをご覧下さい。

(http://www.nmri.go.jp/sed/psa/titanic/titanic.htm)

 

 

 

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