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以上の結果、今回の解析では作成したシーケンスは全部で九〇二シーケンスという膨大なものになりました。

4] 確率値の推定

イベントツリーでは、分岐点から上下にいくつかの岐に分かれます。ここで、それぞれの分岐に分かれる確率を求め、ツリーに値を設定します。

分岐確率の推定はイベントツリーの作成とともに解析の要となる重要な部分です。各種データベースや文献、さらに研究者・実務経験者からのヒアリング等あらゆる手段を用いて値を推定します。

その際、分岐確率の値は、実は図1の例のように確率0.95などと一つの値で与えるのではなく、0.6〜1.0などのように幅のある形で与えます。

これは、0.7などのように一つの値では決めにくいからです。つまり確率は0.7ぴったりではなくて0.75かもしれませんし、0.62かもしれません。そこで、それらの不確実さを考慮するために0.6〜1.0という、幅のある値を与えるのです。

十分なデータが無いなどの理由で明確な値が不明な場合は、十分に大きな幅をみて値を設定します。

5] 被害の推定

それぞれのシーケンスでいったい何人程度の死者が出るのかを推定します。今回は、シーケンスごとに、沈没のどの程度前に救助船舶が駆けつけることができるのか、またその時の波の高さはどのような影響を与えるのかを考慮しつつ専門家の意見を参考に推定しました。

具体的には、乗員乗客が救出されるパターンとして二通りを考えました。一つは救命ボートから救助船舶に救出されるパターン、つまり救命ボートに乗り移るか沈没後に海から救命ボートに乗り込んで、救助に来た船舶に助け出されるパターン。もう一つは、海から直接救出されるパターン、つまり沈没時にタイタニック号から海に投げ出されて直接救助船に助けられるパターンです。

この二つについて図3のA1〜A10に至るまで、どの程度の死者が出るかをそれぞれ計算して推定しました。

 

図3 イベントツリー(後半)

007-1.gif

 

6] 発生確率の計算と集計

以上のような準備が整ったら、コンピューターを使って計算をします。

誤差や仮定を取り入れた影響をみるために、先ほどの例でいえば、分岐確率を0.4〜1.0の間で発生させて計算・集計をを数千回繰り返します(これをモンテカルロ法といいます)。今回は三、〇〇〇回ほど繰り返しました。そして、各シーケンスごとの発生確率を求めて死者数ごとに集計を行いました。

7] 結果の検討

以上1] 〜5] を一通り行った後で、それぞれの分岐確率の値を変化させてみて、それが与える影響を調べてみます(感度解析といいます)。そして、もし影響の大きい分岐確率で精度が十分でないものがあったら、さらに詳しく調査を行います。

8] グラフの作成

以上の結果をグラフにしたのが図4です。普段あまり目にしないような形をしていますので、このグラフの読み方を説明します。

まず、横軸の死者一、四九〇人以上のところ(点A)を見ます。そこから、矢印に従って上の方を見て、ぶつかった所から今度は水平方向左向きの矢印に沿って進みます。縦軸との交点(B・C・D)が死者一、四九〇人以上となる確率です。

 

 

 

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