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海の気象

これからの台風数値予報

美濃寛士(みのひろし)

(気象庁予報部数値予報課)

 

はじめに

 

台風は、大雨、暴風、高波、高潮などの災害を引き起こす巨大な大気の渦巻きです。気象庁では、台風の強さや大きさなどの観測と共に、七十二時間先までの進路や暴風警戒域に対する予報を行っています。台風に関するこれらの情報は、人々の生命と財産を守るうえで非常に重要なものであり、特に船舶の安全および経済的な航行に欠くことができないものであることは、皆さんもよくご存知の通りです。

気象庁における台風予報業務において、コンピュータを用いた数値計算による気象予測、いわゆる「数値予報」が重要な位置を占めています。今後、台風予報の精度をさらに高めていくためには、この数値予報技術の向上が不可欠です。

台風の進路予報の誤差は、予報された中心の位置と、観測された中心の位置との距離で示しますが、数値予報におけるその誤差は年々減少し、台風の進路予報の精度は着実に向上してきました。しかし、防災上で重要なことは台風によってどの程度の風や波、そして降水が、いつどこに起こるのか、などといったことです。そして、これらは台風の強さと密接に関係しています。そこで、台風がどの程度発達するのかという、台風の強さの予報に対しても、数値予報が今後より重要な役割を担えるよう技術開発を進める必要があります。

数値予報による台風の強さの予測精度を高めるためには、初期値の作成手法、予測計算手法のそれぞれについて調査研究を進めることが必要です。なお、計算精度を高めるためには、更に性能の高いコンピュータを導入することも必要です。

この様な調査研究の一つとして、一九九〇年(平成二年)の台風一九号を予報対象とした各国の数値予報モデルの比較実験がアメリカ、オーストラリア、イギリス等九カ国が参加して、一九九七〜一九九九年の三年間にわたって行われました。ここではこの比較実験で得られた成果を紹介し、台風数値予報の今後について述べることとします。

 

台風予報比較実験の概要

 

調査対象とした一九九〇年の台風一九号(図1、図2)は、沖縄の東で八九〇ヘクトパスカルまで急激に発達した台風です。この台風は、一九九〇年に行われた台風特別観測実験の観測網の中で発生し急発達したもので、データが豊富に得られていること、また台風一八号と並んで移動し発達した特異な台風であることなどの理由から、数値予報モデルによる予測の比較実験には最も適しているとして選ばれたものです。

 

図1 気象衛星ひまわりによる1990年台風19号の可視画像

1990年9月17日03UTC(協定世界時)。日本時間の同日12時。

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