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IMB海賊センターとは

(社)日本海難防止協会シンガポール連絡事務所

所長代理 中村博通(なかむらひろみち)

 

はじめに

 

先般発生したアロンドラレインボー号海賊事件では、最終的にはインド沿岸警備隊、インド海軍が偽装した同船を発見し海賊を取り押さえましたが、既報のように海賊逮捕に至るまでの情報収集、情報提供という重要な役割を担ったのがマレーシア・クアラルンプールに所在する通称「海賊センター」です。今回の事件では、日本でも広く報道されたため、同センターの名前も関係者の間に浸透したことと思います。しかしながら、同センターがどのような組織に属しており、どのような活動を普段しているのかはあまり知られていないところだと思います。本稿では、同センターの組織、活動内容を中心に紹介したいと思います。

なお、国際海事局の本部はロンドンに所在することから、その組織、沿革、活動内容については、日海防ロンドン連絡事務所徳永所長から情報提供を受けております。

 

名称、組織等

 

海賊センターの正式名称は「The IMB Piracy Reporting Centre」といいます。正式名称の中に出てくる「IMB」とはパリを本拠地とする国際商工会議所(ICC=International Chamber of Commerce)の下部組織で、国際海事局(IMB=International Maritime Bureau)のことです。国際海事局は国際通商および海上輸送における不正行為およびその他の疑わしき行為を防止し阻止することを目的として、一九八一年ロンドンに設置された組織です。当初は犯罪局(Crime Bureau)と称しておりましたが改名し、民間企業だけでなく政府機関、国際機関から寄せられる情報の収集と、問題が発生した場合の迅速な対応を行うことを主な任務としています。現在国際海事局の会員は、銀行、保険会社、船主、運航者などから構成されています。

 

設立に至る背景

 

一九九〇年代始め、東南アジア海域を中心として海賊事件が多発する状況となりました。事態を憂慮した国際海事局は、一九九二年二月、クアラルンプールにおいて海賊に関する会議を主催しました。結果、海賊対策を効果的に実施するためには、海賊発生の報告を取りまとめ、海運業界および政府関係機関当局の双方に有益な情報を提供し、そして海賊事件の調査を促進する機関の設置が必要との提案がなされました。海賊センターは、この会議での提案を受け、さらにIMOおよびINMARSATの支援の下、一九九二年十月一日にクアラルンプールに設置されました。

当時は、マラッカ・シンガポール海峡での海賊事件が多発し問題視されていた時期で、IMOワーキンググループによる海賊対策会議が開催されていた他、沿岸三国による海賊対策共同パトロールが開始された時期にあたります。

 

活動内容

 

名称や活動内容から、公権力を持った政府系組織として思われがちですが、既述のとおり、実際には国際商工会議所、国際海事局を上部機関とする純然たる非営利目的の民間組織で、活動資金は海運業界、保険業界からの任意の寄付金により賄われています。

同センターは、交替制勤務にて年中二十四時間体制で稼動しています。さらに、常日ごろから国際刑事機構(INTERPOLE)を含む政府関係機関当局と緊密な連絡を取りつつ、世界中の海賊関連情報を収集し、これらの情報に基づいて活動しています。

主な活動内容は次のとおりです。

1 海賊関連情報の通報を受け、他航行船舶、政府関係機関当局へ情報を提供し注意喚起を促すこと。

 

 

 

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