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悪質な海賊・武装強盗の行動パターンを見るとその対策をさらに難しいものとしている。犯人達は奪った船舶の外板塗装を別の色のペンキで塗り替え、また船名と国籍を変更して、奪われた船舶であることを隠ぺいする例が多い。さらに船舶を奪った後は、船舶を襲撃した犯人とは別の乗組員を乗り組ませ、何度も乗組員の配乗を変更するなど、元の船舶であることを徹底的に隠ぺいしようとしている。

そもそも船舶はその性格上海上を航行するものであり、海賊行為を犯した水域にとどまっているわけではない。他国の水域に移動し、別の国の港に出入りすることになる。従って、問題は犯行が行われた国(犯行地国)と船舶の所在する国(所在国)との両方に関係する。船舶が公海や他国の水域に移動してしまうと、これを発見、捕捉することは困難であり、その場合には犯行地国がこれに関与することができないばかりか、両国の密接な連絡なしには船舶所在国の当局がその船舶の動向を把握することは容易ではない。また、海賊船舶の国籍国と海賊犯人の国籍国が同じではないうえに、被害船舶の国籍国とその乗組員の国籍国が異なるのも通常の形態である。さらに、積荷の所有者の国籍国がかわる場合もある。

このような船舶と海上の状況から見ると、一つの海賊事件をとらえても、関係する国が複数にのぼり、いずれの国が当該海賊行為の防止と処罰にそもそも責任を負うべきなのか、ただちには答えられないような状況をきたしている。それが、結局のところ東南アジアにおける海賊の横行を許す結果となっている。

 

将来に向けての対策

 

東南アジアにおける海賊・武装強盗に対応するためには、体制的にも法制的にも従来の枠組みでは限界がある。通航船舶の自衛策や単一の国による対応では困難があるので、将来に向けての対策としては、第一に、関係国間の密接な連絡・通報体制を整備して、関連情報を迅速に伝達して関係国が情報を共有し、それに基づいて関係国すべてが対応することが不可欠である。

現在のところ、各国間の連絡は主として外交ルートを通じて行われており、情報は主として民間自主組織であるICCのIMBが中心となっているが、それに加えて、沿岸警備当局間のホットラインや各国の情報を一元的に管理、伝達するための情報センターの機能などが必要と考えられる。

また、法制的には、海賊・武装強盗犯人がいずれの国に逃げてもこれを捕捉、逮捕し、確実に処罰することが必要である。つまり、犯人および海賊船舶の取締りの側面と処罰の側面の両方の対応が求められる。

執行管轄権と裁判管轄権の両面からの整備が必要となる。そして、そのために関係船舶の旗国、犯行地国、犯人の国籍国、船舶の入港国など、多くの国が密接に協力しなければならない。

例えば、関係国による海域の共同パトロールを行ったり、海賊船舶が犯行地国の海域から別の国の海域に逃亡したとしても、犯行地国の警備当局が追跡を継続できるような枠組みを整備するなどの執行面の整備が必要になる。

また、犯人が所在する国が、その身柄を拘束し、自国で処罰するか、あるいは他国による処罰のために犯人を引き渡すような枠組みも必要であろう。さらに、その処罰を確実にするためには、関係国間の証拠の収集、提供を中心とした捜査共助体制の枠組みも整えてゆく必要がある。そのいくつかは、IMOの海上安全委員会(MSC)においても検討が開始されたところであるが、なによりも東南アジア各国を中心とした関係国自らがその方向で協力していくことが求められていると言えよう。

十一月二十八日に、アセアン首脳会議に出席した日本の小渕首相は、各国の沿岸警備当局による「海賊対策会議」を開催することを提案し、合意されたと伝えられている。東南アジアの海賊・武装強盗に対する対策は、西暦二〇〇〇年の初めに開催される日本での会議に向けて、このような体制的及び法制的な整備がどこまで達成されるかにかかっていると言えよう。

 

 

 

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