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積荷のアルミインゴットは中国で売却されており、その乗組員は行方不明のままである。

さらに記憶に新しいアロンドラ・レインボー号(Alondra Rainbow、パナマ船籍、七、七六二総トン、アルミインゴット約七、〇〇〇トン積載、日本人二人、フィリピン人十五人乗組み)の事件でも、一九九九年十月二十二日インドネシアのクアラタンジュン港を出港直後のマラッカ海峡で海賊に乗っ取られて、日本人を含む乗組員がゴムボートで十一日間漂流させられ、貨物の一部は売却された。同船は、船名をMega Ramaに変更され、乗取犯とは別の乗組員十五人によってインド西方海上を航行中に十一月十六日インド当局に捕捉された。同船をインドのムンバイに回航して現在捜査中であると伝えられている。

 

海賊・武装強盗の問題点

 

1 沿岸国の領水内での発生

東南アジア海域を見ると、インドネシアおよびフィリピンが群島基線で囲まれた群島水域を主張し、また東南アジアの国はいずれも領海一二カイリを測定する基線として大幅な直線基線を主張している。マラッカ・シンガポール海峡を中心として東南アジアで船舶が航行する海域は、いずれかの国の主張する領水(群島水域を含む)に含まれる部分が多く、公海部分はそれほど多くない。

したがって、公海上の強盗であるならば、いわゆる国際法上の「海賊行為」(piracy)として、海洋法上、いずれの国も海賊船舶を拿捕し、自国でこれを処罰することができるのに対して(国連海洋法条約第一〇一条および第一〇五条)、東南アジアの地理的状況から、航行している船舶が襲われたとしても沿岸国の領水内で発生している例が多い。

領水内の強盗はそれだけでは「海賊」に当たらないため、「船舶に対する武装強盗」(armed robbery against ships)という用語を用いて国際法上の「海賊」と区別されているようである。それが沿岸国の領水内の犯罪であるかぎり、取締りと処罰はもっぱら沿岸国の権限と責任であり、特別の国際法上の根拠がなければ、沿岸国以外の国がただちにこれに関与することは困難である。

2 沿岸国の取締り体制

しかし、東南アジアの各国の状況を見ると、沿岸国がこの種の海賊・武装強盗を捉えて処罰した例は多くない。その理由としては、各国がそれぞれの国内事情を抱え、海賊・武装強盗以外に対応すべき多くの問題を抱えていることがあげられよう。

また、海上における犯罪の予防のためには海上におけるパトロールを行い、発見した場合に犯人を捕らえ、これを処罰するために相当の取締体制を必要とするが、その体制を充分に確保できる国は多くない。さらに、東南アジア各国の主張する領水そのものが広大であることもその取締りを困難にしていると考えられる。

3 海賊の行動パターンと特徴

このような海賊・武装強盗に対して、通航船舶の側でも、見張員を増やし、消火用ホースを用いて放水するなど海賊の攻撃からの自衛策を講じてきており、また関係する沿岸国も取締りのためのパトロールを強化するなど一定の対策を講じている。

日本政府も、海賊事件を知ったときは、直ちに船舶航行警報NAVARIAを通じて、付近通航船舶に注意を促し、アロンドラ・レインボー号事件に際しては同船の予定航路を中心とした捜索態勢をとった。しかし、海賊・武装強盗の犯人が逮捕され処罰に至った例はそれほど多くない。

 

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