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東南アジアの海賊・武装強盗について

海上保安大学校

教授 村上暦造(むらかみれきぞう)

 

現状とその特徴

 

東南アジア海域で、最近、停泊中や航行中の船舶を襲って、乗組員を拘束し、船内の金品や物を強奪する海賊事件が増えている。

ICC(国際商工会議所)のIMB(国際海事事務局International Maritime Bureau)によれば、一九九五年以降、世界中で年間二〇〇件前後の事件が報告されており、その半数ないし三分の二が東南アジアで発生しているが、報告されない例を含めると、実際の事件数はさらに多いと想定されている。

その多くは船舶が港に停泊中ないし錨泊中のいわゆる泥棒の形態をとるものであるが、最近の一、二年は、一層悪質で重大な事例が見られるようになってきた。船舶を丸ごとハイジャックし、積荷をすべて奪うとともに、乗組員を殺害したり、これを船外に放り出してしまうような事件である。さらに、原油を積載したタンカーが海賊に襲われて、航行のコントロールを失うような事件まで現れてきている。

この種の悪質なシージャック事件としては、アンナ・シエラ号事件、ペトロ・レンジャー号事件、テンユウ号事件などがマスコミで大きく取り上げられてきた。

タイを出港したアンナ・シエラ号(Anna Sierra、キプロス船籍、砂糖一万二千トン積載、ギリシャ人、ユーゴ人、スリランカ人等二十三人乗組み)は一九九五年九月十五日夜半ベトナム沖を航行中に軽機関銃で武装した海賊(インドネシア人十四人)に乗っ取られ、元の乗組員は全員小型ボートで海に放り出された。同船はその後、ホンジュラス船籍 Artic Seaの船名に偽装されて、十月五日中国の南部北海(Bei hai)港で発見された。

中国当局(PSB)は、同船を抑留し、積荷を陸揚げした。その乗組員を拘束したが、九七年二月末までに全員本国に送還した。また当局は四〇万米ドルの経費支払いを条件として船主に船体の引取りを要請したが、船主は応じず、船体は放置されたといわれている。

一九九八年四月十六日、シンガポール港を出港直後にペトロ・レンジャー号(マレーシア船籍タンカー、六、七一八総トン、乗組員二十人)は、海賊(インドネシア人十二人)に乗っ取られ、元の乗組員を船内に拘束したまま、同年五月一日中国の海南島海口(Hai kou)港で発見され、中国当局は同船乗組員を密輸容疑で拘束した。しかし、当局は同年十月容疑者全員を起訴することなくインドネシアに送還した。

一九九八年十一月十六日、チョン・ソン号(Cheung Son、パナマ船籍、一万三七三総トン、中国人二十三人乗組み)が南シナ海北部で行方不明となり、元の乗組員は船上で射殺されて海におもりを着けて放り込まれたと言われる。その後、遺体数体が中国南部の漁船の網にかかったが、船体はいまだに発見されていない。

日本の船主が所有する船舶や日本人が乗り組む船舶も、マラッカ・シンガポール海峡を中心とする海域で悪質な海賊事件に巻き込まれている。

一九九八年九月二十七日に韓国に向けてインドネシアのクアラタンジュン港を出港したテンユウ号(Tenyu、パナマ船籍、二、六六〇総トン、アルミインゴット約三、〇〇〇トン積載、韓国人二人、中国人十二人乗組み)の事件では、出港直後のマラッカ海峡から行方不明となり、船体は同年十二月二十一日に中国南部の張家(Zhang Jia Gang)港で発見されたが、船名はSanei I(ホンジュラス船籍)に偽装され、乗組員もインドネシア人十六人に入れ替わっていた。

 

 

 

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