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ところが当直の三等航海士にそのことを知らせてなかったのでボタンは押されないままでした。一等航海士がそのことを悔やんでいました。

本誌 それはどういうメッセージですか。

池野 海賊に襲われているという内容です。

本誌 それはクアラルンプールのどこに届くのですか。

池野 海賊情報センターです。(本誌一二ぺージ参照)

本誌 これは対策の一つとして検討に値しますね。

池野 そうですね。ボタン一つ押すだけですから、ちょっとのすきをみて可能性がありますね。

 

参考になる海賊対策

 

本誌 今回の経験から参考になるご意見を聞かせて下さい。

池野 海賊を早期に発見して、船には上がらせないことが先決だと思います。海賊のやり口は船に接近して下からフックのついたロープを投げてのぼってくるのでしょうが、そのロープを切断するとか、上から放水するとかが考えられます。ただ、しくじった場合に皆殺しになるのではないかとか、海賊が武器で下から撃ってくるのではないかなど乗組員も怖がっていますのでなかなか難しいと思います。

本誌 今回は見張りは立てていたのですか。

 

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写真は救命いかだ(東洋ゴム製)15人用、今回の漂流ではこれより一回り大きい20人用だった

 

池野 出港時は立てていませんでした。昔と違って乗組員数が少なくなり、十七人の乗組員の中で海賊当直といっても思うようにならない面があります。甲板長と見習いの二人しか出せないのです。それも長時間やらせることにも限度があります。今回は昼間の荷役作業で疲れているので一晩寝かせてから海賊当直をさせることとし、船橋当直者によく見張るように指示していました。

本誌 外に向けた連絡手段についてはどうでしょうか。

池野 船に小さな発信器を着けておき、ある間隔で電波を出して本船の所在や動きが分かるようにすることも有効だと思います。

 

海賊の襲撃の様子

 

本誌 出港後海賊が乗ってくるまでの本船の動きを聞かせて下さい。

池野 クアラタンジュンを二十時十分に出港、水先人が下船した後、徐々に速力を上げて沖合の灯標を通過したあと、速力一三ノット、進路一三度として、回りの安全を確認してから私は自室に戻りました。その後三十分くらいで海賊が乗り込んできましたから、その位置は、推定でインドネシアの領海内だったと思います。

本誌 海賊が乗ってきたときの本船の状況はどうでしたか。

池野 二十二時三十分ごろ本船の前を右から左に横切る漁船があり、この直後に海賊が乗り込んできたということですから、ひょっとすると陽動作戦で横切り漁船の方に注意を集中させ、船尾の方への注意をそらせたことも考えられます。

本誌 海賊はA号乗組員を監禁したあとどのようにして操船したのでしょうか。

池野 船橋は、しばらく二等航海士が自動操舵機に付きっ切りにさせられ、機関は三等機関士が機関操作をさせられました。

本誌 老朽船の本船への接舷は本船を止めた状態だったのですか。

池野 走りながらの接舷でした。速力は落としていましたが、ドーンドーンというショックがあって老朽船が横付けしていたのです。その後、直ぐに一人づつ連れ出されました。まさか殺すのではないだろうなと思っている間に私の番になり、目隠しのまま船尾甲板に出てそれから壁沿いに前方の方に回らされ、船橋の下付近にきてから目隠しを外されました。そこには老朽船が横付けしていて、本船よりは大分小さな船ですが、本船が満船でしたので空船の老朽船は高さがあまり差がなかったのです。

 

 

 

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